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第四章(15)

 稜弥が彩都から離れて、紙コップに残されたコーヒーに鼻を近づけた。匂いを嗅ぎ、なにかを小さく呟くと、壁際のテーブルに置いてある飲み物を確認し始める。坂上の荷物まで容赦無くひっくり返す稜弥を、床に横たわった彩都は熱に潤んだ瞳で見つめていた。一通り、部屋のなかを確認した稜弥は無言のままで彩都の手を掴んだ。手首を掴まれただけなのに、まるで熱いタオルを押し当てられたように彩都はびくりと大きく震える。 「あつっ、はっはっ、体が、あついっ……」  喘ぐ彩都を稜弥は軽々と抱き上げる。その弾みで彩都の後蕾の奥から粘液が押し出され、下着が汚れたのがわかった。 「あ、いやあ……」  思わず口をついた言葉に稜弥が驚いている。見られるのが恥ずかしくて彩都が顔を背けると、稜弥の体臭がいっそう強く鼻腔に流れ込んで、彩都の思考はもうこれしか考えられない。 (抱いて欲しい。抱いて、抱いて、抱いて……、誰か……)  稜弥は彩都を抱えて坂上の部屋を飛び出すと疾風のように廊下を走り、割り当てられている控え室へと入るとドアの鍵を閉めた。ソファに彩都を座らせると、そのまま横になってしまった彩都の目を覗き込んで「先生、抑制剤は持っていますか」と彩都に問い質した。汗ばんで頬を上気させた彩都の潤んだ瞳が一気に正気に戻る。 「もう俺には隠さないでください。先生はオメガですね。今の症状は非合法ドラッグによる一時的なヒート状態です。取り敢えず止めるには手持ちの抑制剤を服用するしかない」 「ぼく……、ぼくは、オメガじゃ……」 「詳しいことは後から聞きます。いつも飲んでいる薬が抑制剤ですね」  稜弥は彩都の鞄の中からピルケースを取り出して、ペットボトルのキャップを親指で跳ね飛ばした。彩都の上半身を起こし、フラフラと揺れるその肩を支えて、彩都の手にピルケースを乗せる。彩都は浅く呼吸を繰り返して観念したようにピルケースを開いた。しかし、手のひらに錠剤を取り出した途端、さらに体の震えが酷くなり錠剤は小さな音を立てて床に転がった。

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