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第五章(7)

「わかった。準備をするからお前はもう眠れ。取り敢えず期間は三日間、研究棟の学生たちには上手く言っておくから」 「いつもありがとう。……ああ、それに神代くんにも迷惑をかけちゃうな。起きたら……、彼に、あやまら、ないと……」  瞼を閉じ、薄く唇を開いて安らかな呼吸をし始めた彩都の頬を、宣親は大きな手で柔らかく包み込む。眠る彩都の顔に自分の顔を近づけた宣親は、その首すじに鼻を寄せて彩都の匂いを嗅いだ。しかし宣親に感じられるのは微かな汗の匂いだけだ。 (個体差があるとはいえ、アルファたちは総じてオメガの発するフェロモンは甘く香るという。それがわからない俺は……、やはりベータなんだな)  それは最初からわかっていることなのに、今の宣親には歯がゆく感じられた。  彩都の熱を治めるために行った行為のせいで、自身の熱は股間に燻ったままだ。宣親は彩都の唇に自分の唇を軽く触れさせたあと、起こさないようにゆっくりとベッドをあとにした。  シャワーを済ませ、きっちりと身なりを整えると、ベッドの上で眠る彩都のシーツを整える。点滴の残量を確認し、少し仮眠を取っておこうと宣親は特別室を出た。特別病棟の医局の仮眠室に向かおうと廊下を歩いていると、面会室に明かりがついているのに気がついた。誰かいるのかとノックをして扉を開けると、そこには稜弥が静かに座っていた。 「東條先生、七瀬先生の容態はどうですか」  稜弥の姿に驚きつつも、宣親は動揺を悟られないようにソファにどかりと座って煙草を取り出した。火を点けて深く吸い込み、ふう、と長く煙を吐き出す。 「東條先生が煙草を吸われるなんて、初めて知りました」 「普段は吸わない。だけど……」  そこまで言って言葉を切ると、宣親はゆっくりと煙草を吸いきった。その間、稜弥は黙って宣親を見つめた。吸い終わった煙草を灰皿に押しつけ、がりがりと頭を掻いた宣親は、自分を見つめる稜弥に向かって質問を投げ返した。

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