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第五章(8)

「君は彩都がオメガだと最初から気づいていたんだってな。どうしてわかった? 本当は君はアルファじゃないのか?」 「俺は証明書を示したとおりベータです。ただ、七瀬先生に初めて会った日に先生からオメガフェロモンをわずかに感じました。ベータの俺でも気がつくくらいのフェロモン発散量はかなりのものです。それで気になっていたんです」 「確かに君との面談のとき、彩都は発情のような状態になったと俺に言っていた。しかしあのころは抑制剤が十分に効いていたはずなんだ」  眉間に皺を寄せ、なにかを考え込む宣親に稜弥は切り出した。 「東條先生、いつも発情状態になった七瀬先生の相手をするのは、あなたなんですか」  その台詞に若干の苛立ちが混じっている。宣親は稜弥を軽く睨みつけ、また煙草を口にした。 「発情したオメガを鎮めるにはセックスに及ぶしかない。発情期は三日から五日、その間ずっと相手をしなくてはいけません。アルファならまだしも、ベータには体力的にも精神的にも辛いことです」 「だから? 君も彩都の相手をしたいって?」  稜弥がむっとした表情で黙り込む。しかしその稜弥の様子に興味本位の下心など感じられない。宣親は罰が悪そうに煙に目を顰めた。 「すまん、君が彩都や俺を本気で心配してくれているのに八つ当たりをした」 「いえ……」 「もう君に秘密にする必要もない。彩都はオメガだ。そしてオメガ性である自分を嫌悪している。彩都がオメガであることは俺と研究スタッフ、俺が厳選した一部の人間しか知らない。あの研究棟で一緒に暮らしている学生たちにも教えていないんだ」 「彼らにも知られていないなんて、どうやって今まで過ごしてきたんです?」 「今までは抑制剤にそれなりの効果があったってことだ。それに彩都は自身のオメガ性を隠すことに努力を厭わなかった。試薬を飲み忘れたことも一度もないし、体調を毎日記録して少しでも変化があると俺に相談していたんだ。今回だって口では嫌がっていたけれど学会に参加できるのを楽しみにしていて、いつもよりも細心の注意を払っていたのに……」

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