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第五章(9)
宣親が悔しそうに口を噤んだ。稜弥にしても、彩都が夜遅くまで講演会の準備をしていたのを知っている。宣親同様、稜弥もこんな結果になってしまったことに憤りを感じていた。
「神代くん、彩都を助けてくれてありがとう。改めて礼を言わせてくれ。そしてこれは俺の勝手な依頼だが、これからも彩都を助けてやってくれないだろうか」
「もちろんです。先生に頼まれるより先に、俺のほうからお願いしようと思っていました」
「今回のようなことが二度とないとも言い切れない。しかし俺も四六時中、彩都についていてやることができない。君が彩都の側にいるのなら安心だ。なによりも彩都が君を信頼しているからな」
「七瀬先生が俺を信頼している?」
宣親はひとつ頷いてソファから立ち上がった。大きく伸びをして肩に手を置き、首を左右に動かして凝り固まった体を解すと、
「寝言で君の名前を言うくらいだから信頼しているんだろうよ。でもなぜか『神代くん、チョコミントアイス、もう一口だけ』だったけれどな」
教えられた彩都の寝言に稜弥はプッと噴き出した。くくく、と声を抑えて笑う稜弥を見下ろした宣親は面会室の扉へと向かう。
「俺は彩都の様子を見てくるよ。君もここに来た時よりも顔色が戻ったようだけれど、早く家に帰って休め。彩都は二、三日入院させるから研究棟の学生たちに伝えておいてくれ」
「わかりました。明日、七瀬先生の着替えを持って、また様子を見に来ます」
稜弥の返事を聞いて、扉を開けて出ていこうとした宣親が動きを止めた。そして振り返ると真剣な表情をして稜弥に告げる。
「君の質問に答えていなかったな。確かに俺は発情中の彩都を抱いている。しかしセックスと呼べる行為をしたのは、最初の発情期の間だけだった」
「最初の発情期の間だけって、それじゃ今夜は」
「いつもと同じだ。彩都がねだるままにキスをして性器を触って射精をうながす。俺のものは突っ込まない代わりに指かバイブを使う。でもこの行為も発情の初日だけだ。あとは状態が落ち着くまで、彩都は薬で眠らせる」
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