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第五章(10)
「まさか発情期が終わるまで、ずっと眠らせておくんですか? 発情はオメガの正常な生態なんですよ、それをっ」
「言っただろう? 彩都は自分がオメガであることを嫌悪しているって。俺だって本当はこんなことはしたくはない。でもこれは彩都自身が願い出たんだ。あいつは自分のフェロモンに狂って人生を棒に振った人たちに対して、酷い罪悪感を持っている。俺とのセックスも発情状態が終わると、俺に対する申し訳なさで鬱症状になるほど落ち込み後悔するんだ。それにもし、俺との間に子を成したら、東條家の恥になると本気で恐れている。今の状態は彩都をこれ以上、苦しませないために導き出したことなんだ」
しかし、と反論する稜弥を宣親は背中で遮った。ぐっと言葉を飲み込んだ稜弥に宣親は、
「だから君が、彩都や俺を冷静に見ていて欲しい。彩都は罪悪感を払拭するために俺の治験に協力している。でき損ないの薬に苛まれても、それが己の罪を償う方法だと勘違いしている。なのに俺はそれをやめさせられないんだ。彩都に治験を頼んだのは俺なのに、もうやめろ、と言えないんだ。俺がアルファだったら……、良かったのにな」
扉の向こうに消えた宣親の最後の言葉に、稜弥は頬を打たれた。それは宣親の台詞に、友情以外の彩都への強い想いを感じたからだった。
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