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第五章(14)

「神代くんは良くも悪くも目立っちゃうのよ。あなたの容姿は女の子の目を惹いちゃうんだから、誘いを断るにしても言いかたを考えないと。それに花菜ちゃんは、この大学に入学してすぐにヒートコントロールがうまくいかなくて発情状態になっちゃったの。講義中じゃ無かったから良かったものの、それから彼女がオメガだって噂が立ってしまって、学部内で肩身が狭い思いをしているのよ」 「だいたいさあ、オメガだからって誰でもホイホイと寝るようなマネするわけないじゃん!」  亜美が新たな缶ビールを喉に流し込んでくだを巻く。 「なぁにが『亜美の次の発情期はアルファの俺が相手をしてやる』よ! 怪しいサイトで買った胡散臭いキットでアルファだって判定されたからって粋がるんじゃないわよ、バァカッ!」 「……川根さんはどうしたんだ?」 「亜美は同じ学部の斉藤先輩に、ここのところしつこく言い寄られてご機嫌斜めなの」 「ふふ~んだ。あんなヤツ、ハッキリキッパリ、衆人環視の前で盛大にフッてやりましたぁ。あんときの斉藤の顔ったら、マジアホ面で思い出すたびにおかしくてお腹引きつっちゃうわよお」 「それでも『ビッチなオメガ女』って悪態つかれてやけ酒してちゃ、意味ないわ」  ぶっちーん、と亜美の堪忍袋の緒が盛大に切れた。キーッ! と尚もビールを呷る亜美を心配する稜弥に、一人用の鍋と碗を乗せたトレーを手渡した由香里は、 「わたしたちオメガも、男の人たちの目を惹く容姿をしていることは自覚してる。亜美なんかは開き直って手玉に取ってるタイプだけどね。でもこんなわたしたちは同性に嫌われちゃうの。花菜ちゃんも人見知りの性格もあるから、きっと同じ学部の子たちにキツく当たられていると思う。そんな時に神代くんのような、目立つ男の人が親しげにしていたら余計に反感を買っちゃうの。だからできれば外では気をつけて欲しいな」  稜弥はトレーを持って研究棟の廊下へ出た。廊下の先の出入り口から、畜産学科のロゴの入ったツナギを着た孝治が寒そうに帰ってきた。

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