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第六章(1)
今日は朝から曇天で、夕方からポツポツと雨が降り始めた。雨足は時間が経つ毎に酷くなり、稜弥はオートバイで研究室に来たことを後悔した。
フロントガラスを叩く雨は、ワイパーで振り払ってもすぐに玉になって視界を塞ぐ。助手席に座る彩都は、久しぶりの外出に疲れたのかうとうとと舟を漕いでいた。
附属病院横の正門はすでに閉じられていて、当直の警備員にIDカードを示してから校内に入れてもらう。そこからさらに山へと向けて走り、ようやく研究棟の横の温室の屋根が見えてきた。
「先生、そろそろ着きます。起きてください」
稜弥の声に、ぱちっと彩都の瞼が開く。
「お疲れさまでした。雨が降っているので入り口に横付けしますね」
「ありがとう。本降りになっちゃったなあ。神代くん、バイクだよね。今夜は柳くんの部屋に泊めさせてもらったら?」
「そうですね。でも少しは雨足が弱ったようです。様子を見てから帰りますよ」
今夜辺りセシルからのメールがパソコンに届くかもしれない。あれからセシルは無事にドイツでベイン博士たちと合流して、現地の研究機関へと落ち着いたと聞いた。これでリードマンケミカルの人間に狙われる機会は少なくなるだろう。
車を降りた彩都は研究棟の入り口のドアを開けた途端、廊下に響いた声に驚いた。
「花菜っ、帰ってきたのかっ」
そこには奥から走り出てくる孝治の姿があった。孝治は帰ってきたのが彩都だとわかると、明らかに落胆した。
「柳くん、どうした?」
車を停めて入ってきた稜弥ともに、ダイニングルームから出てきた亜美と由香里の心配げな様子を目の当たりにして、彩都はなにか嫌な予感がした。
「先生、花菜ちゃんがまだ戻ってこないんです」
「坂本さんが? もう九時を廻っているのに?」
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