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第六章(2)

 花菜はいつも判でついたように朝、校舎のある第二キャンパスに向い、どんなに遅くても夜七時までには帰ってくる。帰りは早いと自分でバスを利用するが大抵、孝治が迎えに行っていた。これは入学したてでヒートを起こした花菜を心配した孝治の日課だ。どうしても孝治が実習などで迎えに行けないときは亜美か由香里が替わりを務めていた。 「友だちと出かけたとか、図書館にいるとかじゃないんですか」  稜弥の問いに孝治が焦った様子で答える。 「花菜には学部生の友だちなんていないんだ。遊びに行ったなんて考えられない。それに必ず、少しでもいつもと違う行動を取るときは俺に連絡をくれるんだ。ほら、今日は買い物がしたいから、駅前の商店街に出て六時までには帰るって」  孝治がスマートフォンで花菜からのメールを表示して、彩都と稜弥に見せた。 「商店街って、第二キャンパス近くの?」 「あそこなら駅から附属病院までの直通バスがあるわ。いくらなんでも今夜は遅すぎる。それに……」  亜美が少し言葉を濁した。由香里も亜美や孝治をちらちらと見ている。そんな二人に孝治は頷いて、 「花菜の発情期が近いんだ。抑制剤は毎日飲んでるし大丈夫だとは思うけど」 「携帯は連絡つかないんですか? それにスマートフォンのGPSは?」 「何度もかけてるんだけど、ずっと呼出しされているだけなの」 「いつも俺といるから逆にGPS機能なんて使ったこと無くて……。俺、もう一度心当たりを探してきますっ」  飛び出しそうな孝治を稜弥は引き留めた。 「柳、坂本さんの電話番号を教えてくれ」  稜弥は自分の鞄から、普段は彼らに見せることのないスマートフォンを取り出した。これは米国の仲間たちとの通信用だ。しかし今は花菜を探す方が先決だ。  稜弥は「ラフィン」と表示されたアプリを起動させる。「ラフィン」は仲間の一人が構築した汎用人工知能(AGI)だ。ポンと吹き出しが出ると『Hi、TAKAYA』と表示された。

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