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第六章(4)

*****  だれだテメエ! と殴りかかる大男が、稜弥の放った右足をまともに喰らって壁に激突した。安っぽいライトが点滅する大音量の音楽のなかで稜弥は息を弾ませて立っている。その足元には、乗り込んできた稜弥を排除しようとした男達が転がっていた。一般客はみんな、店の外へと逃げたようだ。残った客や店員は店の暗がりに避難して息を潜めている。 「おいッ、神代もうやめろ、それ以上やったら死んじまう」   目的のビルに着くなり、稜弥は熟知しているかのようにまっすぐに店へと向い、入店を阻む黒服の男に一発見舞った。乱入者に気づいた厳つい男達が襲いかかってきて孝治も必死に立ち向かったが、稜弥一人でほとんどの男達は床に突っ伏す事態となっていた。  稜弥のあまりの強さに驚きながらも、孝治は花菜の名前を叫んだ。フロアの真ん中でスポットライトを浴びて立つ稜弥が、小さく鼻を鳴らすと「こっちの部屋だ」と迷わずに駆け出す。そいつらを入れるな、と誰がが怒鳴って部屋から半裸の男が飛び出してくる。稜弥はその男にも容赦なく蹴りを見舞うと男を押さえつけた。 「行け、柳。彼女がいる」  稜弥に促され部屋に孝治が消えた瞬間、花菜ぁ! と絶叫がした。狂ったように何度も花菜の名を叫ぶ孝治の慟哭に、稜弥は奥歯を噛み締める。いつの間にか流れていたうるさい音楽も止んで、緊張を孕んだ静寂のなかに孝治の嗚咽だけが漂いだす。  稜弥は押さえつけた男の顎下を掴むと、片手で吊り上げて近くの壁に叩きつけた。男の悲鳴にザワッとカウンターの奥が動いたが、稜弥の気迫に飲まれて霞んでいった。  喉輪をされた男が苦しげに咳をする。 「お前が彼女をここへ連れてきたのか」 「ち、違う、俺じゃない! せ、先輩がっ」 「先輩とは斉藤というヤツか」 「そうだッ! オメガの女をヤらせてやるって連れてきたんだ。お前たちにもアルファのセックスがどんなもんか味あわせてやるって!」  男の息からは酒と煙草の他に、獣のような臭いが漂っている。

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