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第六章(12)

「神代くん、また助けてくれたんだね」 「先生……」 「ありがとう。本当に……、とても怖かった……」  小さく震えるその声に、稜弥はまた彩都を抱きしめる。稜弥の胸に彩都の頬はさらに強く押しつけられたが、まったく嫌悪感はなかった。それよりも包み込まれる温もりに身を委ねたくなる。彩都は自分でも気づかないうちに稜弥の背中に両手を廻す。ひとつ身動ぎをした稜弥からあの香りが漂うと、吸い込んだ彩都のなかに小さな火を灯した。 「あ、……はぁ」  彩都は慌てて稜弥から体を離した。急に自分を退ける彩都に稜弥が不安げに見つめてくる。その瞳に彩都の胸が小さく鳴った。 (一体どうしたんだろう。彼はベータなのに、どうしてこんなに体が反応してしまうんだ) 「……もしかして発情しているんですか」  稜弥に指摘され、彩都は恥ずかしくて稜弥に背中を向ける。それでも、彩都の中心に点った火はどんどんと大きくなって、張り詰めた股間は破裂しそうだ。これはいつもの発情期の状態とは違う。ヒートの間は、とにかく誰かと睦あいたくて堪らないが、今は明確にある香りを放つ人間を求めている。 (君に慰めて欲しいなんて、こんな願いは言いたくない)  稜弥は彩都の研究室に勤めているだけのポスドクだ。自分がオメガであることを知っても以前と変わらずに接してくれる。そんな稜弥に、淫欲に乱れた自分の姿を見せて失望させたくはない。  ふっふっ、と狭い息を繰り返して劣情を鎮めようとしている彩都に、稜弥が後ろから優しく両手を前へと廻す。そしてあろうことか、稜弥は彩都のうなじをひと舐めした。 「ふあっ! ああんっ」  強い刺激が一気に背筋を駆け抜けた。チカチカと目の前に光が瞬き、頭が痺れて真っ白になる。ぞくぞくと震える彩都の体を、稜弥の手が後ろからまさぐり始めた。 「七瀬先生、遠慮しないでください。一度抜いてしまえば楽になります」

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