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第六章(13)

 稜弥が低く耳元で囁いた。するりと滑り降りた手は彩都のスラックスをくつろげると熱く勃つ花茎を柔らかく握りこむ。硬く勃ち上がっているのに稜弥の大きな手のひらは、すっぽりと彩都の花茎を包み込んだ。 「あ、だめっ……、はあ、あ、あっ、ああっ」  宣親にしか触らせたことの無い花茎は稜弥の手で昂められ、鈴口から止めどなく溢れる透明な蜜が小さな水音を奏で始めた。その音が大きくなるにつれ、彩都の羞恥心は快感を貪欲に求める本能に追いやられる。眉間に皺を寄せ、顎を上げて喘ぐ彩都の肩口から顔を覗かせた稜弥は、彩都の耳朶を舌でなぞり胸に触れていた手を顎下に添えた。 「ああっ、あ、もう、イっちゃ……っ」  ぐいっ、と顎を掴まれる。首を左へと逸らされ薄く目を開けると、滲む視界に収まりきらないほどに稜弥の顔が近くにあった。彩都が稜弥の唇に視点を集中すると、軽く開いた唇から、ふう、と稜弥がまとう香水の匂いがした。 (この匂い……、好き……)  彩都は唇の隙間から舌先を出すと稜弥の唇に近づける。もう少しで下唇に届きそうなところで、急に花茎を扱く稜弥の手の動きが激しくなった。 「ひぁっ、あ、あああッ!!」  彩都は仰け反り、花茎の先から勢いよく白濁を迸らせる。何度も下腹に力を入れて吐き出すと、急に頭から血の気が引いて後ろに倒れ込んだ。  はあはあと力なく体を預ける彩都を受け止めた稜弥は、乱れた彩都の身なりを整え始めた。後ろから廻した手で、器用に自分のシャツの残ったボタンを嵌めてくれる稜弥の指先を見つめながら、彩都にある想いが浮かぶ。 (……キスをしてもらえなかった……)  あと少しだった。確かに稜弥の言ったとおり、達した体の熱は治まりつつある。これは彩都の発情状態を落ち着かせるための緊急処置だとは理解している。それなのにほんの少し稜弥が俯いてくれたら、重なり合うはずだったであろう唇の感触を想うと彩都は切なくなった。

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