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第六章(16)

 宣親は強姦事件を起こした斉藤たちを許さなかった。斉藤たちサークルメンバーを退学や無期停学処分とし、斉藤の父親も東條大学理事から解任、同時に以前から噂のあった政治献金スキャンダルをマスコミにリークして議員辞職へと追い込んだ。そして、東條大学副学長として大学所属のサークルが起こした数々の不祥事に対し、カメラの前で真摯に頭を下げた。ただ、そこまでしながらも宣親は、彩都や亜美たちオメガの存在が決して洩れないように、徹底的に情報統制を行った。  事件は解決したが、肝心のアルファエデンの入手経路はようとして知れなかった。それは入手した本人の斉藤が喋れる状態に無いからだ。斉藤は温室から逃げ出したあとで、意識混濁状態で都内の病院に収容された。宣親の詳しい検査によってゼロ世代アルファだと認定されたが、アルファエデン以外の非合法ドラッグを普段から常用していたようで、それがあの夜に彩都を助けるために稜弥が打ち込んだラットブロッカーとの急激な反応を引き起こし、今は昏睡状態に陥っている。  坂上の時と同様に、斉藤に近づきアルファエデンを渡したのは島田だろう。島田ならこの研究棟に亜美たちオメガが暮らしていると斉藤に教えられる。だが東條大学医学部附属病院の深夜のロビーで会って以降、島田は稜弥の前から姿を消していた。 「そう言えば今日は、島田さんの後任の人が来るんだよね?」  彩都に話しかけられて稜弥は考えごとを中断した。 「ええ、三時に挨拶に来られます。以前もここに出入りをしていた人のようですね」 「うん、トクシゲ化学薬品を定年退職した人なんだ。今度は嘱託で雇ってもらったって言ってたね。結構、島田さんはいろいろと便宜を図ってくれたのに残念だな。君も急に島田さんと離れてしまってさみしいんじゃないかい?」

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