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第七章(1)

「お疲れさん、今日は荒れなかったみたいだな」  宣親が議員会館の二階堂の部屋に入るなり、部屋の主はにやけた笑顔で宣親を歓迎してくれた。 「ああ、ここのところうるさい親父が出てこないからな」 「そうか。あの噂は本当なのか? リードマンケミカルに対してアメリカのオメガ人権団体が主導で集団薬害訴訟を起こすって話。その煽りを受けてトクシゲにも飛び火しそうだっていう」 「さあな。ま、あの親父がいないおかげで、会合は平和的かつ円滑に運営されているよ」  ソファに座ると二階堂の秘書が出してくれた茶をずずっ、と啜った。 「今日、お前に来てもらったのは話したいことが二つあってな。ひとつはこれについてなんだが、ほら、気になるってお前が言っていたここのマークについての報告があったんだ」  二階堂が秘書から受け取った資料の写真を見せる。それは花菜の事件の日、花菜の首に嵌められていた首輪の写真だ。その首輪の革に烙印されている幾何学模様のマークが気になると言ったのは稜弥で、調べて欲しいと言われたのだ。 「警視庁の知り合いに尋ねたらドンピシャだった。これはアルファ創世教会のシンボルマークだ。一部形は違うがほぼ同じだと断定した」 「じゃあ、すでに解散したと思われていた宗教団体が復活した?」 「それはどうかな。ただ今回の件で今、多発しているオメガの失踪が実は事件性があるとの疑いが濃くなった。警視庁は人身売買の可能性も見据えて捜査チームを作るそうだ」 「もしかしたら例のセックスドラッグとの関連もあるのかもしれないな」  アルファエデンはまだ日本に入ってきたばかりだったから、闇社会での本格流通は水際で防げている。これも稜弥のお手柄だ。ただ、どんなに探ってもアルファエデンがどのように日本に持ち込まれていたのかだけは、尻尾が掴めずにいる。 「それでもうひとつの話は?」 「お前、来月ドイツで開催される国際免疫学会議に出席するんだよな?」

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