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第七章(9)
「君たちが東京に戻ってくるまで猶予をあげる。良い連絡を待っているよ、俺も来賓を迎え入れる準備をしておかないとね」
触れられた手を掴もうとした稜弥をするりとかわして、島田は足音もさせずに遠ざかる。あっという間に駐輪場の出口付近に届くと、島田は稜弥の方へと振り返って、
「そうそう君もさ、たまにはアルファの本能に身を委ねてみたらどうかな。きっと自分が生まれながらに、ヒエラルキーのトップに君臨する者だって自覚できるよ」
と言い残して消えていった。
込み上げる憎しみと苛立ちに稜弥は拳を握り締めて堪えた。母と妹のことを忘れたことなど無い。そして今はこの世にいない父のことも。
はっ、と大きく息を出し気分を落ち着けてバイクに跨がった。エンジンをかける前に島田に触られた胸の辺りを服の上から押さえた時、その違和感に稜弥は一気に血の気が引いた。
(しまった! 発情抑止剤のケースをヤツにっ!)
明日から彩都と二人きりだ。もうセシルにもらった抑止剤の予備は残り少ない。
(七瀬先生の次の発情期は二ヶ月程先の予定だ。でも……)
稜弥はバイクの燃料タンクに拳を打ちつけると、自身の不注意を呪った。
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