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第七章(13)

*****  気まずい夕食を終えて彩都に入浴を勧めると、稜弥は彩都を残してテーブルを立ち、シンクで汚れた皿を洗いながら苦しそうに息をついた。  昨日で発情抑止剤は無くなってしまった。徐々に薬の効力が無くなると、彩都から匂い立つフェロモンの香りがやけに鼻につくようになっている。  彩都の次の発情期は二ヶ月後の予定だが、今は体調を整えるためのインターバル期間で、宣親の作った抑制剤を彩都は服用していない。それはわかってはいたのだが、これまで接してきたオメガたちの様子を知る限り、この時期のフェロモンの発散量は対したことは無いだろうと高を括っていた。  この島に来てから、彩都の発するオメガフェロモンは日に日に濃度を上げている。それに呼応して体調も良いようだ。それは日ごろから、彩都の体調管理に気を配っていた稜弥にはうれしいことだったが、反対に自分のほうが彩都への劣情を抑えられなくなる不安で体の調子がすこぶる悪い。  アメリカでは抑止剤なんて飲んでいなかった。どんなオメガが発情期に稜弥に迫ってきても、意志の力で自分を律することができていた。これはアカデミーで学んだアルファなら普通のことだ。その普通が彩都には通用しない。  取り敢えずの対策として彩都と一定の距離を取ることにした。それくらいでは気休めにもならないが何もしないよりはいい。まんまと島田に嵌められている自分が不甲斐なくて、苛立ちが募る。  ガシャガシャと乱暴に洗い物を済ませると、今夜は早めに部屋に籠ることにした。稜弥の態度に彩都も気がついているようだが、東京に戻れば仲間がセシルの発情抑止剤を持ってきてくれているはずだ。 (東京に戻る……)  稜弥はシンクに両手をついて考え込んでしまう。島田は二人が東京に戻ってくるまで猶予をやると言った。奴らと彩都を引き合わせるのが、どんなに危険なことかはわかりきっている。しかし、命令を聞かなければ母と妹に危害が及ぶ。父の命を簡単に奪った奴らだ、母や意識の無い妹を闇に葬ることなど躊躇なくやるだろう。 (くそっ、一体どうしたら)

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