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第九章(1)

 がちゃりと扉を開けて病室に入ってきた宣親に、稜弥は腰かけていたベッドから立ち上がって息もつかずに「七瀬先生は?」と問いかける。その稜弥の姿を横目で睨んだ宣親は、不機嫌なさまを隠すことも無く、稜弥の前のパイプ椅子にどかりと腰を降ろした。  いらいらと胸のポケットから煙草を取り出し、ここが禁煙だと思い出して舌打ちをする。そんな宣親を立ったままで凝視する稜弥に、煙草の箱とライターをテーブルに放り投げて「そんなに見るな、穴が開く」と言うと、宣親は大きなため息をついた。 「デカイ図体で突っ立ってないで座れ」  しかし、黙ったままで微動だにしない稜弥にとうとう宣親が折れた。 「彩都は無事だ。酷い脱水症状に貧血、そして桜斑が以前よりも濃くはなってはいるがバイタルは安定した。でもウイルスはもう、いつ発症してもおかしくはない状態だ」 「そんな……。島では桜斑はかなり薄くなっていたんです。先生も今までに無いくらい体調が良いって……」  下唇を噛み締める稜弥に宣親は冷たい視線を向けたまま、 「よくもまあ、飲まず食わずで五日間もヤれたな。確かにベータの俺には無理だ。で、お前はどうなんだ。その顔色だと昨夜は少しは眠れたか」  ヘリのなかで応急処置を施され、東條大学付属病院に着くなり、稜弥は彩都と引き離されてこの病室に閉じ込められた。興奮する稜弥にセシルが鎮静剤を打って意識を無くし、目を覚ましたら丸一日経っていた。  青色の病衣の袖からは白い包帯をした両腕が覗く。宣親はその腕をじっと見つめて、 「どうして彩都と番わなかった」  グッと拳を握り、俯いて立つ稜弥に宣親はさらに問う。 「彩都は運命の、『魂の番』じゃないのか? それともなにか? お前は俺に遠慮でもしたのか? もしもそうなのなら、ここでもう一発、お前を殴らせろ」  険しさを増す宣親の台詞を、稜弥は静かに受け止めて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

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