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第九章(2)

「……俺はあなたがあの人を愛していることを知っています。でも、だからといってあなたに遠慮なんてしません。……番わなかったのは、あの人が俺と番たいと言わなかったから。ヒート時の刹那的な恋情ではなく、あの人自身に俺を『魂の番』の相手として求めてもらいたかったからです」  宣親が苦い顔で稜弥を見つめる。 「大体のことはセシルから聞いた。お前はベイン博士が創立者の一人でもある、アルファアカデミーの卒業生なんだってな。第一世代アルファのなかでも特に優秀な人間だと。でも、いくら優秀なアルファでも、面と向かってあったことのないオメガを運命の相手だと思えるのか?」 「……七瀬先生とは六年前のカリフォルニアで行われた、ハイパーウィート大規模栽培実験のボランティアに参加した時に会いました。十六のころです。休憩中に先生に声をかけられて、その時に俺は彼が魂の相手だとわかったんです」 「六年前の実験には、俺も同行したから良く覚えている。だが確か、カリフォルニアの農場には一日だけの滞在だったぞ? それに現地の大学関係者としか接触する機会は無かったはず……」  あ、と宣親がなにかを思い出して声をあげた。 「もしかしてお前か? 彩都がハイパーウィート畑で迷子になったのを助けてくれた、チョコミントアイスの少年ってのは」  宣親の言いように思わず稜弥は笑みを溢して、彩都と初めて逢った十六歳のあの日のことを想い返した。

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