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第九章(9)

「島田はゼロ世代アルファでリードマンケミカルの産業スパイです。トクシゲの社員のように装っていますが、トクシゲに背信の意があるかどうかも彼はリードマンに逐一報告しているはずです」 「やはりそうだったのか。やけに口の上手い胡散臭い奴だとは思っていた。母親と妹が奴らに捕らわれているとも聞いたが、彼女たちはお前が日本に帰ってきたから狙われたのか?」  稜弥は眉間に皺を寄せて黙り込み、やがて苦しそうに吐き出した。 「違います。母は……、父が亡くなったあと、徳重剛造と再婚したんです」 「再婚だって?」  宣親が驚きの声をあげる。 「俺の父はゼロ世代アルファ、そして母もゼロ世代のオメガです。父はトクシゲ化学薬品の研究員でした。徳重剛造は母の高校時代の家庭教師で、一時期は母と結婚の約束もしていた。でも、のちに出会った父と母は互いが魂の番だとわかり、惹かれあって、俺とオメガの妹が生まれました。俺たち家族がアメリカに渡ったのは、リードマンケミカルとトクシゲ化学薬品が抑制剤販売で手を結ぶことになり、父が志願してリードマンの研究室に行くことになったからです。父は体質に合わない抑制剤で苦しむ母の姿を見ていた。そして将来、妹もその苦しみに耐えなくてならないことが苦痛だったのでしょう。父はリードマンの研究室でベイン博士と出会い、博士に師事した。俺もベイン博士に誘われて、家族と離れてアルファアカデミーに入ったんです」 「徳重は、自分の部下に好きな女を奪われて、さらに金の成る木の抑制剤にケチをつけられたってわけか」 「アカデミーは完全寄宿制でなかなか家族とは会えなかった。そのうち父に帰国命令が下り、俺だけはそのままアメリカに残りました。しかし、そのころ、父やベイン博士とリードマンとの関係は悪化していく一方だった。でも俺は何も知らなくて……。日本から初めて連絡があったのは父が亡くなった知らせでした。それも妹がオメガであることを悲観しての無理心中だったと聞かされたんです。そしてその後、ベイン博士もあの事件で重傷を負いました」

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