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第九章(10)

 宣親が立ち上がって病室をうろうろする。稜弥はその宣親の姿を目で追った。 「なるほど。徳重剛造が自身をアルファだとうそぶいていたのは、そんな経緯があったからか。アルファ創世教会に肩入れしたのも、アルファたちのなかに身を置きたいという思いと同時に、金さえあれば優秀な人類といわれるアルファたちでさえ、普通の人間の自分に平伏すという優越感に浸りたかったんだろう。それに異様なオメガ排斥も歪んだ恋情の現れなんだな。お前の母親と再婚したのも、まだ愛しているからというわけではなくて、裏切られた復讐をしているんだろう。きっと、妹さんの医療費を出すとでも言って、騙したようなもんだな」 「母は徳重の邸宅にはいませんでした。そして妹は今、容態が悪化して生命維持が必要な状態です。もともと寝たきりだったので、それなりの医療機関でないと受け入れはできないはずだと都内の病院は片っ端に探したのですが、見つけられませんでした」  考え込んでいた宣親が、なにかに気がついたように顔をあげた。 「徳重は自分の病院を持っている」 「えっ?」 「創世会病院っていう会員制の医療機関だ。その病院は解散したはずのアルファ創世教会の残党との関係が疑われて、公安のマークが入ることになったんだ。そこなら、お前の妹を隠すことができる」  その時、宣親が胸ポケットからスマートフォンを取り出して通話を始めた。短く相手とやり取りをしていた宣親は通話を終えると、 「川根さんと吉田さんの行方がわかった。彼女たちの抑制剤のポーチに仕込んでいた発信機が示したのは、奥多摩にある施設だ。もしかしたら、今まで行方不明になったオメガたちもいる可能性が高い」 「そこが創世会病院なんですね」  稜弥の目に力が蘇る。宣親がいる前で病衣を脱いで、稜弥が着替え始めた。 「おい、まさか乗り込む気か? お前一人でなにができる。ここは警察に任せておけばいい」

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