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第九章(11)
「もう奴らに、こちらの動きを知られている可能性もあります。警察が到着する前に場所を変えられるかもしれない。最悪、妹の生命維持装置を切られてしまったら……」
その時、高いヒールの音が廊下から響いて、勢いよく扉が開いた。顔を蒼白にしたセシルが粗い息で病室に入ってくると、二人に向かって叫んだ。
「大変よっ! 七瀬博士がいなくなったわっ!」
「どういうことだ。まだ、彩都はひとりでは歩けないのに」
特別室の開け放たれた窓から入る風が、カーテンを大きく揺らす。部屋の中央にある大きなベッドはシーツが乱れ、確かに先ほどまで彩都が眠っていた痕跡が残されていた。
「仲間から電話があって部屋を出たの。ほんの少しの時間だったのに、戻ってきたら彼の姿が無かったの」
セシルの震える声に稜弥は注意深く部屋のなかを覗う。少し鼻を鳴らし、セシルに振り向くと「アルファの匂いがする」と言った。
「ええ、これは軽いラット状態のアルファの匂いだわ。七瀬博士は彼らに連れ去られたのね」
「でも窓から入ってきたわけではないようだ」
「ここは二十階だ。ヘリででも乗りつけない限り、窓からは入れん」
「ということは、ここにはもう一箇所しか出入り口はないわ。奴らは正面から正々堂々とやってきたと?」
「まさか。この階は特別にセキュリティが厳しいんだぞ?」
宣親が豪奢な廊下をエレベーターホールへ向けて歩いていく。稜弥とセシルもあとを追い、宣親が自動で開いたドアを抜けて、その横に直立不動で立つガードマンの前に出た。宣親がガードマンに話しかけようとしたとき、いきなり彼は腰に下げていたスタンガンを宣親に向けて、突進してきた。
「東條先生っ!」
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