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第九章(13)

*****    ふるっ――。  寒さに体が震えた。次第に暗い闇から意識が浮かんでくる。細かくまつ毛が揺れると、彩都は重たい瞼をゆっくりと開けた。 「あ、気がつきましたか」  聞きなれた声が部屋に響く。彩都は声のした方へ顔を向けた。その時、なぜか妙に首の辺りが締めつけられて、急に息苦しさが増す。 「……しま、だ、さん……? どうして、ここに?」  彩都は壁を背に、腕を組んで自分を見ている島田の姿を認めて不思議に思った。ここは宣親が彩都のために作った附属病院の特別室のはずだ。宣親が許した人間でないと絶対に入れない。でも、なんだかいつもの部屋と様子が違う。空調が壊れているのか、やけに寒さが肌を刺す。 「すみませんねえ、先生をこんな部屋にお連れして。俺は、ちゃんと失礼の無いようにお迎えしたほうがいい、って言ったんですけどね、徳重社長が『オメガにはこの部屋で十分だ』って聞かないんですよ」  島田から、オメガ、と言われ、彩都は反射的に体を起こそうとした。ところがなにかに首を引っ張られて、ごほごほと咳き込んだ。 「苦しかったですか? でもそれは唯一、先生の最後の貞操を守る物なんで外せないんですよ。だけど驚いたな。稜弥くんは先生と番わなかったんですねえ」 「ど、うして、それを……」  咳で滲んだ視線の先の島田はにやにやと笑っている。言葉は変わらず丁寧なのに、醸し出される不遜な空気に彩都は周囲を見渡した。  ここは知らない部屋だ。どうも病室のようだが、壁に穿たれた小さな窓には鉄格子がついている。申し訳程度の洗面台と寝かされていたパイプベッドは、病室というよりも監獄を連想させた。

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