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第九章(14)

 ベッドのパイプ部分から、自分に向かって伸びている鎖が目に入る。自然と締めつけ感のある首に触れると、無骨な固い感触に思わず手を引っ込めた。そのまま自分の格好を確認して、彩都は信じられないと目を開く。着せられていたであろう青い病衣はズボンが無く、冷たい空気が股間に直接触るさまに下着さえないことに気づいて、残っていた病衣の上着の裾で、寒さに縮む花茎を隠した。 「しかし色っぽいですね、七瀬先生。まさか、男のオメガがこんなに艶かしいとは思わなかった。ここに来るセレブたちが近頃、男を所望するのもわかる気がするなあ。俺も宗旨替えしそうですよ、なんたって先生が放つこのオメガフェロモンの匂い、極上のワインにも引けを取らない芳醇な香りだ」 「島田さん、あなたは……、アルファ、なんですか?」 「ええ、そうです。でも稜弥くんとは違って、ゼロ世代のでき損ないアルファでしてね。まあ、そのお陰で他のアルファやオメガにも気づかれずに隠密活動できるんで、ボスには可愛がられてます。でも、先生の研究室に行くのはいつも緊張したな。だって、先生を筆頭にオメガ娘が三人もいたでしょ? 亜美ちゃんのフェロモンに当てられた時もぎりぎり我慢はしたんですよ。あ、あの時は東條先生から庇っていただいて感謝してます」 「……ボスって、徳重社長……?」 「いいえ、俺のボスはリードマンケミカルのトップ、本当なら先生には俺のボスにすぐにでも会っていただきたかったんですが、徳重社長がここに連れてこいとうるさくて」  ガチャリ、とドアが開いて徳重剛造が数人の男達と部屋の中へと入ってきた。彩都は険しい雰囲気を感じて、思わずベッドの端へとにじり寄り体を小さくした。 「目を覚ましたのなら、なぜ知らせに来ない。こいつから東條の抑制剤について聞き出せたのか」 「あのですね、俺はあなたの部下じゃないんですよ。勝手にカルト集団の残党を使って、次々とオメガを誘拐するのもいいですがね、これはいただけないなあ。ウチのボスが知ったらトクシゲさんとの今後の取引、考え直しちゃうかもしれないですよ?」

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