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第九章(15)
徳重と島田のやり取りに、彩都は最近の事件を思い出す。
「じゃあ、これまでにあったオメガの人たちの失踪は……っ」
「この人がね、自分の有益になりそうなお金持ちの接待に使うために、攫ってここで飼ってるんですよ。ま、ようは性奴隷ってやつですか。今は亜美ちゃんと由香里ちゃんもここにいますよ」
ショックと怒りで体が前に出た。途端にガシャンと鎖に引っ張られて首輪が喉に喰い込む。激しく咳き込みながらも彩都は、なんとか首輪を外そうと両手の指を厚い革にかけて藻掻いた。
「徳重さん、俺はボスから、有名な植物学者の七瀬彩都をくれぐれも失礼の無いように連れてこい、って命令されてんです。いくらなんでも、こりゃ酷すぎませんか」
「ふん、お前のところのホモ社長は、こいつをペットにしたいだけだろう。それに、オメガがハイパーウィートを作ったなど信じられない。どうせ、他の研究者に色仕掛けでもして、研究成果を自分のものにしたんだ。卑しいオメガのやりそうなことだ」
徳重は彩都に近づくと蔑んだ目で睨みつける。
「東條の抑制剤の秘密を教えろ。大人しく教えなければ、七瀬彩都がオメガだとマスコミにばらす。そして東條宣親と爛れた関係を持ち、東條財閥の後押しで、世界を飢餓から救った英雄などという嘘で人心を謀った、と公表するぞ? それとも今すぐお前を殺して、その体を隅々まで調べてやろうか」
徳重の口調には、ただの脅しではない威圧感がある。しかし彩都は恐怖に震える体を奮い立たせて、唇をきつく結ぶと徳重の顔をきつく睨んだ。
ジッと自分を見つめる彩都の澄んだ瞳に、徳重のこめかみに青筋が浮かんだ。徳重は控えていた男達に「こいつにあれを打ってやれ」と命じる。彩都に迫ってきた男達は、自分の体に触らせまいと暴れる彩都の動きを封じると、その細い腕に注射針を突き立てた。
「痛いっ! やめろ、僕になにを打ったっ!?」
男達が彩都から離れて、遠巻きに彩都を見つめる。島田が呆れた顔で徳重に言った。
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