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第十章(1)

「警察だ!」  大きな建物内に怒鳴り声と悲鳴が轟き渡る。混乱のなかで警官隊と共に突入した稜弥は、彼らの先頭にたち、迷うことなくまっすぐに広い廊下を走っていく。稜弥の行く手を止めようと厳つい男達が次々と道を塞いだが、稜弥はすれ違いざまにその男達を倒していった。  そのうしろに続く宣親とセシルは、稜弥が倒した男達を避け、時々廊下の影から襲いかかる輩を退けて息を切らして稜弥についていった。 「しかし、あいつも君も、なんでそんなに強いんだっ」 「アカデミーの格闘技教習は海兵隊の訓練並みなのっ」  左右に分かれた廊下の突き当たりに止まると稜弥は「右の奥に川根さんたちがいる。彩都はこっちだ」と迷うことなく左へ進んだ。  宣親は続く警官隊にそれを伝えて、 「あいつはオメガフェロモンを嗅ぎ分けているのか」 「フェロモンにも個性があるわ。でも今のわたしにはわからない。だってこの建物を覆っている匂いは、ひとつしか感じられないもの」  騒ぎに気づいた者たちがそれぞれ籠っていた部屋から何事かと顔を出す。その面々に宣親は、見知った政治家たちの顔を幾人も見つけて笑いが出そうになった。 「明日の新聞は大騒ぎだな! 政界の大スキャンダルだ」  一気に階段を駆け上がり、ようやく稜弥は何の変哲もない病室の扉の前で立ち止まった。追いついた宣親とセシル、そして数人の警察官は、扉を睨んで立つ稜弥の気迫に圧倒された。 「いるわ、凄い香り。あの島で咲いていたサクラの花と同じ香りだわ」 「ああ、俺にもわかる。これが本当の彩都の匂いなんだな」  セシルが赤い唇に抑止剤のカプセルを含んだ。そして稜弥に銀色のケースを投げ渡す。稜弥は中からすべてのラットブロッカーの圧縮注射器を取り出すとケースを投げ捨てた。その銀色のケースが床に落ちるよりも早く、稜弥は目の前の固く閉まった扉を蹴破っていた。

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