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第十章(2)

 扉が破られた音に、彩都にのしかかっていた男達が部屋に飛び込んできた稜弥に一斉に視線を向けた。そのどの眼も異様にギラギラと光り、入ってきた男の強者の雰囲気を肌で感じながらも、オメガを取られまいと威嚇を始める。 「彩都オオオーっ!」  咆哮をあげた稜弥に男達が襲いかかる。稜弥は次々と男達をなぎ倒し、的確に彼らの首すじにラットブロッカーを撃ち込んだ。  ほとんどの男達が床に沈んだところで宣親たちが突入した。宣親の目に写ったのは、床に転がり痙攣しながら、口から泡を吹いて倒れるアルファたちの姿だった。 「いつもの倍の容量だもの。当然よね」  自身も彩都のフェロモンに当てられそうになりながらセシルが宣親の後ろから部屋のなかを窺う。  稜弥は残り一本のラットブロッカーを構えて彩都のいるベッドを睨みつけている。ベッドの下には徳重剛造が仰向けで白眼を剥いて倒れ、島田が苦しそうに喘ぐ全裸の彩都の両手を背中で拘束して、その左胸にラットブロッカーの圧縮注射器を押しあてていた。 「稜弥くん、これってさ、オメガに使っても効くもんなのかな」  あれは稜弥が島田に奪われた物だ。稜弥は奥歯が割れるかというほど噛み締めて、島田と対峙した。ここからなら、ひと蹴りすれば島田に届く。全神経を集中して、少しの隙も逃すまいと瞬きも忘れて二人を睨んだ。 「あーあ、だから安易にベータが俺たちの関係に手を出すなって言ったのにな。このオヤジはオメガをただのセックスドールだと勘違いしてる。でも違うんだ。オメガはアルファがこの世界に存続するための絶対不可欠な存在だと俺は思ってるわけ。でないと番った相手としか一生セックスできないなんて、いじらしい仕様にはならないでしょ?」  フッ、と笑って島田が彩都に嵌められていた首輪を外す。 (まさか彩都に噛みつくつもりか!?)

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