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エピローグ(1)

***** 「それでね、わたしはセシルと亜美ちゃんの結婚式の時に着たドレスでいいって言ったの。なのにお父さんったら『もっとちゃんとした格好じゃないと陛下や皇族方に失礼になる』って。だからってわたしに何の相談もなく、着ていく服を決めるなんて!」  ソメイヨシノが満開の庭に持ち出したタブレットの向こうで、柔らかな頬をリスのようにプクッと膨らませた女の子の顔を見て彩都はくすくすと笑った。 「でも、京都のおばあちゃんや恵梨香さんが、紗季のために作ってくれた振袖なんだよね」 「そうなのっ! すごくきれいな桜の柄のお着物なのよ! ああ、パパや父さまにも見てもらいたかったな」 「僕も紗季のかわいい振袖姿、見たかったよ。それで園遊会はどうだった?」 「とってもステキだった! 満開のお花を見てみんなびっくりしてたよ。『さすが七瀬博士だ、現代の桜守だ』って政府の偉い人たちが言ってた。わたしもうれしくて、この桜はパパが咲かせたんだってみんなに自慢したの。陛下もね、『とてもきれいなお花を咲かせてくれて、ありがとうと博士に伝えてください』って」  この島のエドヒガンを、かろうじて残っていたソメイヨシノとかけ合わせてみた。予想したとおり、アルファの特徴を持ったエドヒガンは遺伝子の欠損したソメイヨシノと上手く合い、出てきた新芽はすくすくと成長して、一年後には見事な花を咲かせた。その桜を元に株分けを進めて、千鳥が淵や上野、飛鳥山へと植えると、三年後には祖父の写真集のような情景が目の前に広がっていた。  彩都の桜は今、日本中に広がろうとしている。今年に入り桜は海を渡ってアメリカや中国、イギリスにも寄贈され、桜落の大災禍以降、諸外国との交流が途絶えていた日本にとって、美しい親善大使の役割も担っている。  今日は半世紀ぶりに皇居で桜を愛でる園遊会が催された。彩都も宮内庁から招待を受けたが、それは丁寧に辞退をして、代わりに宣親と紗季が参列したのだ。

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