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「……チッ、外れた」  舌打ちと共に不穏な言葉を吐き捨てるドゥーガルドにぞわりと鳥肌が立った。 「ちょっと、チェルノを守る以外で僕の弓を使わないでくれるかなぁ。もったいない」  ジェラルドが肩を竦めて、弓矢の回収に向かった。どうやらジェラルドの弓を借りたようだ。  いやいや、つーか、チェルノ以外守る気ないのかよ!  物腰柔らかで優しげな口調なのでついつい忘れそうになるがジェラルドもだいぶブッ飛んだ性格だったことを思い出す。 「テメェ! 何しやがる! こいつはともかく俺に刺さったらどうしてくれんだ!」 「いや! 俺の方こそお前に巻き込まれて刺さったら可哀想だよ!」  アーロンに刺さるのは自業自得以外の何ものでもないが、俺は完全にとばっちりだ。 「……大丈夫だ。俺がソウシに怪我をさせるわけないだろ。もしそんなことがあったらこの命をもって償う」 「重い重い! 大丈夫! 大丈夫だから!」  本当に何かあったら切腹でもしかねない真顔で言うものだから俺は慌てた。 「それにドゥーガルドがいなくなったら色々困るからな」  基本チェルノとジェラルドは人に無関心なので、自分達に害がなければアーロンの横暴な所業を止めることはあまりない。  ドゥーガルドはそんな中、唯一俺を守ってくれる貴重な存在なのだ。  ……まぁ、ドゥーガルドも俺のケツを狙っているので、完全に安全な味方ではないが。 「……そうか。ソウシはそんなに俺を失いたくないんだな。……嬉しい。そうだな、結婚をするというのにそんな無責任なことを言ってはいけないな」 「いつ誰が結婚するって言った!?」  俺の事になると妄想と現実の区別がつかなくなるのも玉に瑕だ。  ドゥーガルドの言葉にアーロンがハッと鼻を鳴らして笑った。 「じゃあ未来の旦那様が嫁の代わりに水を汲みに行けよ。お前の身に何かあった時はその未亡人は俺がもらってやるからよ」 「誰が未亡人だ!」  結婚はしてないし、嫁じゃないし、ドゥーガルドが死のうと生きようと俺は赤の他人だ。  右も左もボケばっかりで、ツッコミがいよいよ間に合わない。 「……あのクズの言いなりになるのは嫌だが、ソウシを行かせるのは心配だ。俺が行こう」 「いやいや、無理しなくていいって。今足をケガしてるだろ」  包帯が巻かれたドゥーガルドのふくらはぎをちらりと見る。  三日前に遭遇したモンスターから俺を庇った時にできた傷だ。幸いにも歩けないほどひどくはないが、それでも無理はさせたくない。 「……でも心配だ。もし可愛いソウシの身に何かあったら俺は……この森のモンスターを殺し尽くす」 「どこの狂戦士だよ!」  真顔どころか目に殺意を宿しているドゥーガルドに思わず身震いする。 「……でも一人じゃ危ない。それに一人では重いだろ」 「大丈夫。あれだったらチェルノに手伝ってもらうし」  チェルノを誘えばもれなくジェラルドもついてくるし、一石二鳥だ。  チェルノに同行をお願いしようとくるりと振り返ったが、 「殺す殺す殺す殺す……」 「ひえっ!」  膝を抱きながら暗い目でと呪いの言葉のように重い呟きを繰り返すチェルノに、思わず短く悲鳴を上げた。

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