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 どうやらアーロンが剣でモンスターを薙ぎ払ってくれたようだ。  吹っ飛ばされたモンスターは木にぶつかって卒倒していた。 「アーロン……!」  正直、あの利己主義の塊であるアーロンが助けに来てくれるとは微塵も思っていなかった。  一日に平均して約三百回は死ねと思っている相手の顔が、こんなにも眩しく見える日がくるとは思ってもいなかった。  ありがとう、と言い掛けて、いやいや待て待てと思い留まる。  考えてみればこんな状況になったのも全てこいつが俺に水汲みへ行けと命じたせいだ。  俺は目尻を吊り上げてキッとアーロンを睨みつけた。 「助けに来てやった、じゃねぇよ! 全部お前のせいだろうが!」 「は? なんで俺のせいになるんだよ」  心底不可解そうに眉を顰める男に、ぴきりとこめかみに青筋が立った。 「お前が水汲みに行けなんて言わなければこんなことにならなかったからだよ! というか、魔除けも全然効かねぇし!」  首からぶら下げている魔除けの小袋を手に持ってアーロンに突き出した。 「魔除けとはいってないだろ。魔除けみたいなもん、って言ったんだ」 「魔除けみたいなもんって言われたら魔除けの効果を期待するだろっ」  軽い調子で言葉遊びのような言い逃れをするアーロンに食ってかかると、面倒臭そうに溜め息を吐かれた。 「いいじゃねぇか、細かいことは。おかげで命は助かったみたいだし」  そう言ってアーロンは口元にニッと嫌な笑みを浮かべた。  アーロンの視線が俺の股間に向けられている気付いて、俺は慌てて脚を閉じた。 「人の股間をじっと見るな!」 「いやぁ、濡れてるなぁと思って。あまりの怖さに漏らしたか?」 「誰が漏らすか! これは、その……」  自分の名誉のため力強く否定したが、事実を話すのは憚られた。  モンスターに欲情されて一物をすりつけられたというのもなかなかに男の威信を傷付けるものだ。  言い淀んでいると、アーロンが鼻でハッと笑った。 「当ててやろうか? モンスターに欲情されてチンコをすりつけられたんだろ」 「え!」  な、なんで分かったんだ!?  まるで一部始終を見ていたかのような……、いや本当にどこかから一部始終を見ていたのかもしれない。  そしてギリギリのところで俺を助け、その謝礼を請求する魂胆なのかもしれない。  あり得る、大いにあり得る。アーロンはそういう人間なのだ。 「見てたなら最初から助けろよ!」 「は? 何言ってんだ?」  心底意味が分からないといった表情でアーロンが眉を顰めた。  その白々しさにイラッとする。

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