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「しらばくれるな! どうせ近くで様子を見てたんだろ! それでギリギリの所で助けて謝礼金をふんだくろうって魂胆だったんだろ!」 「え? お前、モンスターに襲われている人間を前にしてそんなこと考える奴がいると思うのか? わー、引くわー。そういう発想をするお前に引くわー」 「お前に言われたくないんだけど!」  ドン引きの表情をするな! いつものお前なら普通の思考回路だろ! 俺はちゃんと助け……いや、残念ながら自分では助けられないけど、助けを呼ぶくらいはするぞ!  守銭奴の中でも選ばれし生粋の守銭奴であるアーロンに引かれるなんて心外だ。 「じゃあなんでそんな一部始終を見てたようなことが言えるんだよ」 「そりゃあその小袋を持ってたらな」 「小袋?」  まさか盗聴器でも入ってんのか? と小袋を開けた。  しかし中は乾燥した薬草が入っているだけだった。 「あんまり開けない方がいいぞ。それ、効果が強いからまたモンスターが寄ってくるぜ。まぁ獣姦されたいなら別だけど」 「……は?」  さらりと言ってのけたアーロンの言葉に俺はしばし固まった。  ちょ、ちょっと待てよ。それってまさか……。いやいや、いくらクソクズ守銭奴地獄行き確定野郎でもそんなことはしないだろ。  脳裏によぎった可能性に頭を振った。しかい疑念が拭えないので、一応、確認してみることにした。 「ま、まさか、あのモンスターが勃起してたのってこれのせいじゃねぇよな……?」 「何言ってるんだ。そうに決まってるだろ」  アーロンはあっさりと俺の疑念を認めた。  しかもその顔は自分が悪いことをした自覚のないもので、一層俺の怒りに油を注いだ。 「ア、ア、ア、ア、ア、アーロンこの野郎ぉぉぉぉ!」  俺は怒りのあまり絶叫した。  なんだそのきょとんとした顔! こっちがきょとんだわ! 「ふざけんなよ! 何が魔除けだ! 魔除けどころか魔寄せじゃねぇか!」 「うるせぇなぁ。ギャンギャン騒ぐな。鬱陶しい」 「お前のせいだろ! この諸悪の根源!」 「ひでぇ言い草だな。それがなければ今頃食われてたかもしれねぇっていうのに」 「は? どういうことだよ」  意味が分からず眉根を寄せると、アーロンは面倒そうに溜め息を吐いて説明した。 「これは近くに迫ったモンスターの食欲や攻撃性を性欲に変えてくれるんだよ。だからこれがなかったらお前は今モンスターの胃の中にいた可能性が大だ。どうだ? これでこの小袋の有り難みが分かっただろ」 「なるほど! だからモンスターは俺の上に覆い被さった後、勃起し始めたのか! じゃあこの小袋が俺を守ってくれたんだな! わぁ~、ほんとこの小袋に感謝しないとな……ってなるかぁぁぁぁ!」  俺は渾身の力を込めて小袋を奴の顔に投げつけた。 「なにすんだよっ。これは人間に相手には効果ないから、俺を発情させようとしたって無駄だぜ。残念だったな」 「全然残念じゃねぇし!」  鼻で笑うな! 苛立ち倍増だ!

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