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「……ソウシは素直で本当に可愛いな。すぐに気持ちよくする。口でするのと、手でするのどっちが――」
機嫌良く問い掛けるドゥーガルドの言葉は、首元にスッと当てられた冷たい剣の持ち主に遮られた。
「なに人の物に勝手に触ってんだ、この陰険根暗野郎」
葉っぱや蜘蛛の巣を髪に絡ませてやや汚れたアーロンが、額に青筋を立ててドゥーガルドの背後に立っていた。
復活、早っ!
あれだけ吹き飛ばされたのだ、しばらく気を失っているんじゃないかと思ったが、ゴキブリ並みのしぶとさに思わず感心する。
「三秒以内にそいつから離れろ。さもないと首切って自分の息子をしゃぶることになるぞ」
物騒な宣言をするアーロンに対して、剣を首元にあてられているドゥーガルドは少しも動揺しておらず、それどころか鬱陶しそうに目を眇めて肩越しに振り返った。
「……腐ってもお前は聖なる剣に選ばれた勇者だ。だから殺さないようにしようと思っていたが、やはり斬っておくべきだったな」
「お前如きが俺を斬れるわけがねぇだろ。自惚れんな、このボンボン剣士」
ハッと鼻で笑うアーロンに、ドゥーガルドの眉がぴくりと動いた。
「……なら、試してみるか」
そう言ったと同時に、ドゥーガルドが剣を抜き、勢いよく背後のアーロンに目がけて切っ先を横に払う。
アーロンはその攻撃を予期していたかのように、ひょいと後ろへ跳び退いて、胴体が真っ二つになる惨事を難なく逃れた。
ドゥーガルドは、チッと忌々しそうに舌打ちした。
「……うろちょろと動き回るな。蝿のように鬱陶しい男だな。貧民街の生まれ育ちの者は皆そうなのか? それとも蝿に育てられたか」
「あぁ?」
ドゥーガルドの挑発に、アーロンが顔を顰め、目に見えて怒りを露わにした。
「蝿に子どもが育てられるわけがねぇだろ。これだから世間知らずのボンボンは困るぜ。……今度俺の親を馬鹿にするようなこと言ったら殺す」
低い声で吐き捨てると、勢いよく足を踏み込み、駿足でドゥーガルドまで迫る。
俺の目では追いつかないほどの速さで剣を振り下ろすが、ドゥーガルドは難なくそれを自分の剣で躱した。
「……そっちこそ今度俺の家を侮辱すればただで済むと思うなよ」
カン、キン、と剣と剣がぶつかる鋭い音が絶え間なく続く。
見る限りすぐには決着はつきそうになさそうだ。
目の前で死なれるのは後味が悪いが、こいつらにケツを狙われ続ける生活にも疲れてきたので、俺を襲えない程度の軽いケガをする相打ちで終わってくれないかなと密かに願う。
殺伐とした展開にはなったが、すっかり甘い雰囲気が霧散して俺はほっとした。息子の方は残念そうではあるが……。
とりあえずこいつらは放っておいて、チェルノ達のところに戻ろう。
その前に、アーロンやドゥーガルドのせいで汚れた下半身を洗おうと、膝に引っ掛かっているズボンを脱いで川辺にしゃがみ込んだ。
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