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 あー、シャワー浴びてぇ……。    俺は溜め息を吐きながら、ズボンのポケットに入れていた手拭いを取り出して川の水で濡らした。そして汚れた部分をそれで拭いた。  一応汚れは取れたがすっきりはしない。  早く元の世界に戻って風呂に入りたいな……。  この世界でも大きな街に行けば大浴場があるが、我が家の風呂に勝るものはない。  若干ホームシックになりながら手拭いを川で洗う。  川の水は澄んできれいだったが流れは結構速かった。そのせいで、ほんの少しの隙からさらうように手拭いが川に流された。 「あ……」  反射的に身を乗り出して手拭いを取ろうとした瞬間、ずるりと足が滑った。  体が前に、つまり川に向かって勢いよく倒れた。  バシャン、と水飛沫が上がった時には、す でに川の流れに飲み込まれていた。 「あ、ぶわっ、え、ちょ……ッ!」  水が澄んでいて川底が見えていたので、そんなに深くないと思っていたが、どんなに足掻いても爪先すらかすらなかった。  助けを求めようと声を上げようとしたが、口を開ければ勢いよく流れてくる川の水が入ってくるばかりで、声を上げるどころか呼吸すらままならない。 「……ッ! ソウシ!」  アーロンかドゥーガルドか、どちらか分からないが流れていく俺にようやく気づいたようで名前を叫んだ。  けれど、水に揉まれて流される俺には二人の姿を見ることは出来なかった。  次々と横を通り過ぎて行く景色に助けを求められる人の姿はなく、木々が黙って流れる俺を見送るばかりだ。  やばい! やばいやばいやばい……!  俺はすっかりパニック状態になっていた。水の勢いに体の自由は奪われ、助けてくれそうな人もいないこの状況に冷静になれという方が無理な話だろう。  息が上がり、次第に足掻いているのもきつくなり、力尽きるようにゆっくりと水中に沈んでいく。  嘘だろ……、まさか異世界で川に流されて死ぬとか、笑えねぇ……。  本当に笑えない話だ。このまま誰にも知られず死ぬなんて……。まだまだしたいことがたくさんあったのに……。  可愛い女子と仲良くなって、両片思いの期間の甘酸っぱさを味わうとか、遊園地や水族館とかで王道のデートをするとか、ファーストキスをするとか、童貞卒業するとか……。  考えればきりがないほど未練ばかりが頭に思い浮かぶ。  そんな俺の甘酸っぱさ満点の未練を嘲笑うように、これまでのことが走馬灯のように脳裏に巡る。  慶介に荷物持ちとして虐げられた苦い在りし日々、アーロンとの最悪な出会い、ドゥーガルドに手コキを施した夜、男には有り得ない処女喪失、そして今さっきに至るまでのケツを死守するために攻防を繰り広げる日々――。  ……ん? え? 待て待て! なんか俺の人生ひどくないか!? いや、ひどすぎる!  走馬灯の俺、泣いてばっかなんですけど!?  薄らいでいた意識が、あまりの走馬灯のひどさに覚醒する。  絶対生きる! こんな人生で終わらせてたまるかぁぁぁぁぁ!!  悔しさのような、怒りのような、腹の底から湧き上がる強い感情に力を得て、俺は再び水面に顔を上げた。

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