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「なんやかんやで俺も確実に成長して……っぶっくしょい!」  調子に乗るなというようなタイミングで盛大なくしゃみが出た。 「寒……ッ!」  ガタガタと震える体を抱き締めて腕をさすった。  髪も体もずぶ濡れで、その上濡れた服まで体に貼り付いているのだ。体が冷えないはずがなかった。  とりあえず濡れた服を脱いで思いっきり水を絞ると、近くの木の枝にそれを干した。  できれば柔軟剤で洗ったふかふかの温かいタオルで全身を拭きたいところだが、もちろんそんなものはないので、仕方なく手で体の水を拭いた。  ほとんど無意味だがやらないよりマシだ。  足や腕など皮膚を濡らす水滴を払うように手で拭いていると、 「い……ッ」  肘に痛みを感じて、思わず顔を顰めた。  そして肘の方を見ると、そこには擦り傷より少し深めの傷ができていた。  よく見ると他にもちらほらと似たような傷が体に散らばっていた。大ケガというわけじゃないが地味に痛い。  恐らく川で流された時に岩などにぶつかってできたものだろう。 「踏んだり蹴ったりだな……」  はぁ、と溜め息を吐いて俺は草むらを掻き分けて、あるものを探した。 「……あった!」  見つけたスペードの形に似た手の平くらいの葉っぱを数枚とって川辺に戻った。  その葉っぱは薬草の一種で、軽いケガなら一日それを貼っておけば治る優れものだ。これを教えてくれたのはアーロンだった。  俺が転んだ時にこれを持ってきて傷口に貼ったのだ。もちろん純粋な善意からではなく「こんな小せぇケガで軟膏を塗るなんて勿体ないだろ」とのことで、完全なるドケチ根性からの教えだった。  その時はもっと俺を大事にしろ! と腹が立ったが、まさかこんな形で役に立つとは思ってもいなかった。  もちろん奴には感謝なんて微塵もしていないが、やっぱり知識に無駄なものはないな、と改めて知識の大事さを知る。  今度ちゃんとチェルノにでも色々教えてもらおう、と考えながら、薬草を水で洗って傷口にぺたりと貼り付けた。 「~~~~っ!」  染みるような痛みに奥歯を噛みしめて堪える。でも放置して膿んだり炎症を起こしたりするよりマシだ。  一通り目立つ傷に薬草を貼り終え一息吐いたところで、首にぶら下がっている笛を手にした。  川に流された際に体と同じく、いやそれ以上に岩などにぶつかったのか、ひびが所々に入っていた。  試しにぴぃ、と吹いてみる。しかしひびから空気が漏れてしまっているのか、弱々しい音しか出なかった。 「だめか……」  俺は肩を落とした。もしこの笛が壊れているなら、ドゥーガルドたちと合流できる可能性が絶望的だからだ。  でも、対になっている笛と光で繋がるって言っていたし、音が出なくても大丈夫だよな。  残念ながらもう片方からでないと光は見えないらしく、自分の笛は死んだように沈黙しているが、今はとりあえずそれに頼るしかない。 「もう一回鳴らしとくか」  モンスターも嫌がる音だと言っていたし、こんな音でもとりあえず周囲にいるモンスターを追い払うくらいの力はあるだろう。  確か熊対策で、音を鳴らして歩いていると熊の方が警戒して音の方を避けるという話をきいたことがある。  モンスターと熊を一緒に考えていいかはさておき、不安を慰める意味も込めて笛をもう一度吹いた。  ――ガサッ  笛を鳴らした直後のことだった。背後の草むらが揺れる音がした。 「え?」  ――ガサガサ  気のせいかと思う間もなく、また草むらの方から音がした。しかもさっきより近くなっているような気がする。  え? うそ? なんか後ろにいる……? いやいや! まさか! だってこの笛を鳴らしたばっかだろ?  必死で否定しつつも、不安が胸に押し寄せて鼓動を速める。  どうか聞き間違いか、うさぎなどの無害な小動物でありますようにと祈りながら、恐る恐る振り返った。 「……ッ!」  神様はよっぽど試練を与えるのが好きなようだ。 「グルルルル……ッ」  草むらから姿を現したのは大きな狼のような黒い獣で、こちらを睨み据えて低く唸っていた。

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