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今日は厄日かよ! もううんざりだ!
災難の連続に、俺は思わず頭を抱えて叫びたかったが、獣の鋭い目に居竦んで指先さえ動かすことは出来なかった。
獣は俺よりも数倍大きく、さっきのモンスターが子犬に見えるくらいだった。
全裸で固まっている俺は、まさにその獣にとっては据え膳と言った感じだろう。
けれどなぜか黄土色の瞳には、普通のモンスターのような凶暴性を感じられなかった。黒いの毛の中であまりにもきれいに輝いているせいかもしれない。
まるで夜空に浮かぶ満月のようなその瞳に、据え膳である状況も忘れて見とれていると、突然その獣は地を蹴ってこちらに向かってきた。
やばい、食われる……ッ!
今度こそお終いだと俺は目をぎゅっとつむった。
ところが獣はこちらに飛び掛からず、俺の数歩前で跳び上がり、俺の頭上を突き抜けていった。
一瞬、何が起きたか分からず唖然として、背後に着地した獣の方を振り返った。
見ると黄色と黒の縞模様の、いかにも毒がありそうな蛇を口に咥えていた。
そしてそれをペッと吐き捨てると、蛇は恐れを成したのか、俺達とは反対方向の森へと逃げて行った。
蛇の後ろ姿を呆然と見送りながら自分の頭上を見上げると、俺の服を干した木の枝に、さっきの蛇の仲間らしき蛇が枝に巻き付いていた。
「ひぇ……ッ!」
びっくりして座ったまま後ずさる。
よく見るとその木の幹には穴が開いていて、卵らしきものが見えた。
もしかするとこの木は蛇たちの巣で、そこに服を干した俺を敵と見なして攻撃したんじゃ……。
そう思うと、寒さからではない鳥肌が全身に走った。
「……ということは、もしかしてお前、助けてくれたのか?」
言葉が通じるわけがないと分かっていたが、ついつい獣に問い掛けた。
もちろん獣が返事をするわけがなかった。
けれどこちらをじっと見詰めるその目は獲物を捕らえる獣のような狂暴な感じはなかったし、何となく俺の言葉に頷いているようでもあった。
「えっと……、ありがとうな」
礼を言うと、獣はふい、と顔を逸らし草むらの方へ歩き始めた。
しかしその足取りが少しおかしいことに気付いた。
こちらに突進してくる時は気付かなかったが、その歩き方はケガをしている部分になるべく負担がかからないようにしているものだった。
「え、ちょ、お前、ケガしてるのか?」
駆け寄ろうとすると、それを制するように獣が勢いよく振り返ってこちらを鋭い目で睨んだので、俺は慌てて足を止めた。
どうやら助けてはくれたものの、人間に対して決して心を許しているようではなかった。
しかし獣の足を見ると、切り傷のような傷口から血が出ていて、地面には血の跡がついている。
それは獣が蛇を咥えて着地した場所くらいからその血が点々と続いていた。恐らく治りかけの傷が、着地した衝撃でまた開いたのだろう。
そう思うと助けて貰った身としては何だか申し訳ない。
「あ、そうだ! これつけたらよくなるかも」
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