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命を助けて貰ったせめてものお礼にと思い、薬草を持って近付こうとすると「グルルル……ッ」と威嚇するように唸られた。
「あ、えっと、違う違う。別にお前に悪いことしようとしてるわけじゃなくて、ほら、傷の手当て」
肘に貼った薬草をぺらりと剥ぎ傷口を見せて、自分が今からしようとすることを手振り身振りを交えて伝える。
正直なところ、獣にそんな説明をしても伝わるはずがないのだが、何となくそいつは普通の獣と違うような気がした。
しばらくすると、獣はゆっくりと俺の方を向いた。
そして地面に静かに腰を下ろし、まるで手当を頼むといった風に、ケガをしている前足を上にして足を重ねた。
俺はほっと安堵の息を漏らした。
「よかった、分かってくれて。お前、賢いな。ちょっと水を持ってくるから待ってろ」
そう言い置いて川辺に向かい、俺は水を両手ですくってから駆け足で獣のところに戻った。
そして獣の前に膝をつき傷口を水で洗った。
「よしよし、いい子だ。じゃあ次はこれを貼るからな」
言いながら傷口に薬草を貼り付けると、ビクッと前足が動いた。
一瞬、薬草を貼った時の染みるような痛みを攻撃と捉えられたんじゃないかと内心ひやりとしたが、獣は何もしてこなかった。
「――よし、これで大丈夫。たぶん一日くらいでよくなると思うから、今晩は絶対それ剥がしちゃだめだからな」
前足に貼られた薬草をくんくんと匂っている獣に言い聞かせるようにして言うが、もちろん獣は分かっていないだろう。
「じゃあ、さっきはありがとうな。お互いケガには気をつけないとな。それじゃ」
俺は立ち上がり、手を軽く振ってから獣に背を向けた。
やっぱり川を流れて来たんだから、ドゥーガルドたちの助けを待つなら川辺がいいよな。でもさっきみたいな蛇もいるから気をつけないとなぁ……。
そんなことを考えながら川辺へ向かっていると、
「わふっ!」
まるで呼び止めるように背後の獣が鳴き声を上げたので、思わず振り向いた。
獣はじっと俺の方を見てから、川辺とは逆方向に歩き始めた。
手当の礼を言ったのか? と思いながらその背中を見送っていると、獣が歩みを止めまた振り返った。
そしてじーっと俺をまた見つめた。
……もしかして、ついて来いってことか?
都合のいい解釈かもしれないが、でも何となくその目はそう言っているように思えた。
少し迷ったが、俺は自分を助けてくれた獣を信じることにした。
獣のもとに駆け寄ると、獣は頷くような間を置いて再び歩き始めた。
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