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森の中をしばらく歩くと、洞穴の前まで辿り着いた。そして獣はその中に入って行った。
え……、洞穴とか大丈夫かな?
よく漫画とかだと蛇の巣だったりとか、人間の骸骨があったりと、何となく洞穴にはいいイメージがない。
もちろん獣のことを疑っているわけではないが、それでも何となく中に入ることを躊躇っていると、獣が足を止め、じっとこちらをまた見詰めてきた。
恐らくついて来いということだろう。
ええい! ここまで来たんだ! 行くしかない!
一人で森を引き返す勇気もないし、万が一、蛇が出たとしてもさっきみたいに獣が助けてくれるだろう。
自分にそう言い聞かせて、俺は洞穴に足を踏み入れた。
獣の後について暗い洞穴を進んですぐに、ぼんやりと先に明かりが見えた。
「え! もしかして人が……!」
希望の光が見え、胸が期待で高まる。
走って行きたいくらいだったが、視界が暗いので無理は禁物だ。走りたい気持ちをぐっと堪えて、大人しく獣の後をついて行った。
暗い洞穴を抜けると、そこは円状の空間になっていて、中心には焚き火が燃えていた。そのため空気が暖かく、水に濡れて冷え切った体には本当に有り難かった。
「わぁ、あったけぇ……!」
堪らず焚き火の前に駆け寄り、手を火の前にかざした。体の芯から温まるようだった。
でもなんでこんなところに火が……? もしかするとここに人が暮らしてるのか?
そうだとすれば、こんな洞穴に焚き火があることも、そして俺を助けてくれた獣のことも納得がいく。
「もしかしてお前、ご主人様とここで暮らしてるのか?」
問い掛けてみたが、獣はこちらに少しも視線を寄越すことなく、俺の横に腰を下ろした。
考えてみれば獣なのだから俺の問いに答えてくれるわけがないのだが、ついこいつには質問してしまう。
とりあえず、一晩ここで過ごさせてもらおう。外でドゥーガルドたちの救助を待つより安全だ。それにもしこの獣の飼い主が帰ってきたら助けを求められるかもしれない。
そう思うと、今までの緊張と不安が随分軽くなった。
その安堵と火の温かさから、急激に眠気が襲ってきた。
「ふわぁ……」
大きな欠伸が出ると、さらに眠気が強くなった。
俺は少しだけ眠らせてもらおうと、焚き火の前で横になって体を丸めた。
意識がゆっくりと深い眠りから浮上する。意識の浮上に伴って、自分を包む温かく柔らかな感触が鮮明になっていく。
まるで天日干しした布団のようだ。きっと母さんが干してくれたんだろう。
起きてから礼を言わないと。もちろん感謝の気持ちもあるが、礼を言うと母さんは喜んで朝ごはんのベーコンを多めにしてくれるのだ。
でも、もう少しだけ、あと五分……。
母さんに言い訳するように心の中で呟きながら、再び眠りに入ろうとして、はたと気付いた。
え! いや、待てよ! ここは異世界のはずだ!
驚いて飛び起きると、そこはやっぱり昨日と同じ薄暗い洞穴の中だった。
ただひとつ違ったのは、あの黒い獣が俺を包み込むように囲って眠っていたことだ。
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