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 うわ……! すげぇもふもふ……!  黒い毛並みは美しく艶やかで、それでいて触り心地は柔らかく、大袈裟でなくこんなに気持ちのいいもふもふ感に触れたのは初めてのことだった。  俺はその気持ちよさに、つい獣の体にもたれてその毛の中に頬をすり寄せた。  はぁ~、癒やされる……!  このもふもふ感にもだが、こうしてまるで俺を冷えから守るように包み込むこの獣の優しさにも、心が癒やされた。  考えてみれば、あのパーティーはひどかった。  アーロンは優しさや癒やしとは対極にいる存在だし、ドゥーガルドは優しいが、その裏に下心があるような気がして素直にそれを受け取れない。  チェルノやジェラルドはアーロンみたいにひどくはないが、基本無関心だ。  だから獣とはいえ久しぶりに純粋な優しさに触れて、俺は思わずうるっとなった。 「……ありがとうな」  ぽんぽん、と軽く撫でて礼を言うと、獣が静かに目を開けた。 「あ、ごめんな、起こしてしまって」  謝ると獣はおもむろに俺の顔をぺろぺろと舐めた。 「あはは、くすぐったい、くすぐったい。おはよう」 「わふっ」  俺の挨拶に応えるようにして獣が、柔らかな声で吠えた。 「ふふ、意外と人懐っこいな、お前」  この人慣れしている様子、飼い主がいる可能性が高いかもしれない。  そうなれば、ドゥーガルドたちと合流できなくても、とりあえずは近くの街に案内してもらえるはずだ。 「お前のご主人様、まだ帰ってこねぇの?」 「わふっ」 「うーん、肯定か否定か分からねぇな」  どちらともつかない獣の返答に苦笑する。まぁ言葉が通じているかも怪しいが。 「というか、お前呼びじゃ失礼だな。命の恩人だもんな。とりあえずご主人様が帰るまで仮でクロって呼ばせてもらうな」  黒い毛並みだからクロ。我ながら安直だと思うが、飼い主が戻ってくるまでの仮の名前だ。凝る必要もないだろう。 「わふっ」  クロ、という名前に反応するように獣――クロは大きな尻尾をぱたぱたと振った。柔らかな毛先が腿をくすぐる。 「ははは、気に入ってくれたようでよかっ……」  ぐぅぅぅぅ、とモンスターの呻き声にも似た大きな腹の音が鳴り響いた。  その音はもちろん俺のものだ。 「ははは、ごめんごめん。あー、腹減った。昨日から何も食ってないもんなぁ。なんか食べられそうなもの探してくるかな」 「わふっ」  立ち上がろうとした俺を制すようにクロが鳴いた。  そして、顎で指し示すように洞穴の隅の方へ顔を向けた。追って視線を遣ると、そこには赤い果実が山盛りに置かれていた。 「わぁ! うまそう!」  見るだけでヨダレが溢れてくるその赤さに、俺は嬉々とした足取りで果実のもとへ駆けて行った。 「これ、クロが全部とってきたのか?」 「わふっ!」  クロが得意げに吠えた。  て、天使かよ~~~~~!!  最高のもふもふだし、気も利くし、優しいし、賢いし、本当に天使でしかない。 「本当にクロはいい子だなぁ」  感激して、大きい獣だというのについつい犬のように頭をわしゃわしゃと撫でてしまった。  しかしクロは嫌がらず、むしろ目を細めて尻尾を振った。 「俺の仲間が救出に来るまでよろしくな!」 「わふっ!」  こうして俺とクロの二人だけの生活が始まった。

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