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ドゥーガルドたちとはぐれて、一週間が経った。
けれどドゥーガルドたちが姿を現すことはなかった。とりあえず毎日、洞穴の外で笛を吹いて待っているのだが、ひびが入っているせいか効果はないようだ。
だが、生活に困ることはなかった。
「うわぁ、クロ、今日もいっぱいだな!」
「わふっ」
果物をたくさんとって洞穴に戻ってきた――恐らく飼い主が置いて行ったものであろう袋に果物を入れてそれを咥えている、クロを褒めると、得意げに吠えて尻尾を振った。
「ふはは、クロは本当にすごいな。クロがいてくれなきゃ俺は今頃餓死してたよ。クロ様々だ」
「わふっ」
頭を撫でるとクロは嬉しそうに目を細めた。
意外にもこの遭難生活は苦にならなかった。それもこれもクロのおかげだ。
食事はクロが果実や魚を持ってきてくれるし、水も川が近くにあるから問題ない。
わがままを言えば、木に乾していた服が風で飛んでいったのかなくなっていたので何か着る物が欲しいところだ。けれど人間の慣れというものは怖いもので全裸でいる事に対してだんだん違和感がなくなってきている。
そして何より、クロが心強さと癒やしをくれるおかげで、俺はこの異世界で仲間とはぐれてしまったという絶望的状況でも自分を保つことができた。
ただひとつ気になるのは、クロの飼い主が一向に現れないことだ。
もしかしてクロは野生の獣なのだろうかとも思ったが、それにしては人慣れしている。それに洞穴にはマッチが落ちていた。
クロがマッチを使えるはずがないので、きっと俺がここに来る少し前までは飼い主がいて、その人が焚き火をつけたはずだ。
そう考えると、もしかすると飼い主はケガなどをしてここに戻って来られないのかもしれない。最悪な想定としては、死んでいる可能性もある。
それでもクロは健気にここで待ち続けているのかと思うと、胸がきゅうと痛くなった。
ある晩、目が覚めるとクロが隣にいないことに気付いた。
これまでずっと離れずに俺の傍にいてくれたクロの姿がなく俺は慌てて洞穴を出た。
すると少し離れたところで、クロが洞穴に背を向けて空を見上げていた。
夜空には半分の月が浮かんでいて、その光がクロの毛に注がれ艶やかに潤んでいた。
よかった、クロがいて……!
すっかりこの生活でクロに依存していた俺はほっと息を吐いた。
駆け寄ろうとした時、
「ウォォォン……」
静かな森にクロの遠吠えが鳴り響いた。それはひどく寂しい声色をしていた。
そういえば、狼は遠くにいる仲間との意思疎通の術なのだと聞いたことがある。
もしかするとあの悲しい色をした遠吠えは、まだ帰って来ない飼い主に対するものなのかもしれない。
もちろんその遠吠えに返事をするものはなく、クロの遠吠えが闇に消えた後は、悲しいくらいの静寂に満ちていた。
静寂の前に佇むクロはひどく寂しく見えた。
「……ッ、クロ!」
堪らなくなってクロに駆け寄りその大きな体に抱き付いた。
「大丈夫! きっと夜だから寝てるだけだって。それに俺達人間はクロ達みたいに耳がよくないし……とりあえず大丈夫。大丈夫だからな!」
なんだか俺の方が切なくなってきて、ぐすっと鼻をすすった。
するとクロが慰めるようにぺろりと顔を舐めた。
「ははっ、俺が慰めてもらっちゃったな。ありがとう、クロ」
「わふっ」
どういたしましてと言うかのようにクロがひと吠えした。
「洞穴に戻ろう。俺、全裸だからクロがいないと寒くて眠れないんだ」
そう言って洞穴に向かうと、クロは俺の後を静かについてきた。
それからクロの柔らかな毛に包まれながら俺は再び眠りについた。
あー、やっぱりもふもふは最高だなぁ……――
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