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 日が完全に落ち暗くなった森で、パチパチと音を立てる火を囲んでみんなで夕食をとる。   「うわぁ、美味しいねぇ、久しぶりの魚うれしいなぁ」  焼いた魚の身を野草で包んで口に運び、チェルノがほくほくとした笑みで言った。 「ほんと美味しいね、チェルノ」 「テメェの肉も美味ければ殺した後売れるだろうな。いくらになるか楽しみだ」  横でにこやかに相槌を打つジェラルドに見向きもせず、笑顔のまま答えるチェルノの発言に俺は思わずむせた。  な、なんで、美味しい食事の話からそんな血生臭い話に飛べるんだ!  しかしさすがはジェラルドと言うべきか、殺害後の自分の話をされているというのに微塵もその優美な笑みが崩れることはない。 「えー、僕は余すことなくチェルノに食べて欲しいけどなぁ」 「テメェの肉を食べるなら馬糞を食った方がマシだこの糞野郎」 「チェルノそういう趣味があったんだね。僕は全く趣味ではないけどチェルノが好きなら今度のプレイで取り入れようか」 「その前にお前の頭の中に馬糞を取り入れてやるよこの糞以下野郎」 「ちょ、ちょっと食事中にクソクソ言うなよ!」  食欲をこれでもかというくらい削ぎ落とすその会話に耐えきれず苦情の声を上げる。  もちろん普段なら、この二人の不穏な会話には一切触れないが、今日はそうもいかない。だって、今日の夕食は特別なのだ。 「この魚はクロが獲ってきたんだからなっ。汚ぇ話しないでちゃんと味わって食えよ!」 「あはは~、そうだねぇ、クロちゃんありがとう~。というか、ソウシはもうすっかり親バカになってるね」 「うるさい」  確かにモンペになっている感じは否めない。  でもうちの可愛い天使が獲ってきたんだぞ! 汚い話でうちの子の収穫をけがすな! 「でもそっちのワンちゃんばっかり褒めてると、もう一匹のワンちゃんがさらに落ち込んじゃうよぉ」 「あー……」  チェルノの言葉に、俺は焚き火から少し離れた所で体育座りをして膝に顔を埋めるもう一匹のワンちゃんをちらりと見遣る。その背中は言いようのない哀愁を帯びている。   「えっと……、ドゥーガルドもこっち来いよ。ドゥーガルドの獲ってくれた魚も美味しいぞ!」  魚を刺した木の枝を手に持って、ドゥーガルドに声を掛ける。しかし全くこちらに振り向く気配はない。  クロの獲った魚よりも大きい魚を獲ってくると宣言して川へ向かったドゥーガルドだったが、帰ってきた彼が手に持っていたのはししゃもくらいの大きさの魚が五匹だけだった。  俺からしたら釣り竿もなく、あの夕方の薄暗い中よく獲れたなと感心するレベルなのだが、ドゥーガルドはすっかり落ち込んでいた。

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