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街に入ってから、アーロンとドゥーガルドとジェラルドはそれぞれ買いたいものがあるということで、俺はクロを連れてチェルノと一緒に街を回ることにした。
街の中に入っても、クロは注目の的だった。鎖で繋がれているとはいえ、大きな獣だ。注目されるのは分かる。
けれど、街の人達の反応は純粋な驚きだけではなかった。
「黒い獣……」
「目の色も金色よ……」
クロの姿を認めると皆一様に眉を顰めてこそこそと小声でひそめくのだ。
はっきり言ってあまり気持ちのいいものじゃない。
「なんだよ、クロのことジロジロ見やがって……」
「まぁ仕方ないよ、クロちゃん目立つしね~」
ぶつぶつと文句を言う俺をチェルノがどうどうと宥める。
「クロちゃんも分かってると思うけどお店のものは勝手に食べないようにね~」
「わふっ」
チェルノの注意にクロは当然だとでも言うように答えた。
道の両側には食べ物や薬草関係の店が並んでいるが、クロは全く興味を示さず真っ直ぐ前を向いている。さすがクロだ。
「クロはお利口さんだからそんなことしないもんな~」
「わふっ」
街の人達の視線が冷たい分、俺が存分に褒めようと頭に手を伸ばしたその時、クロの頭に目がけて小石が投げられた。
「ちょっ、誰だ! クロに石を投げたやつ!」
目尻を吊り上げて石が飛んできた方を見ると、少年が石を持ってまたクロに投げようと構えていた。
「こら! 動物に石を投げたらだめだろ!」
俺が怒ると、少年はビクッと体を震わせたが、すぐに毅然とした表情を取り繕ってキッとこちらを睨みつけてきた。
「だってそいつ黒の使いだもん!」
「黒の使い?」
まるで自分の行為を正当化すると信じて疑わないその言葉に首を傾げた。
すると、
「コラ! アンタ何してんの!」
店の奥から出て来た少年の母親らしい女性が少年の耳を引っ張った。
「だ、だって、黒の使いが……」
「だからって石を投げちゃだめでしょ!」
言い訳する少年を叱ってから、母親は俺の方を向いて頭を下げた。
「すみません、うちの子がご迷惑をおかけしてしまって。お怪我はないですか?」
母親が心配そうに俺とクロの顔を交互に見る。
「いや、ケガはしてないみたいですけど……あの、黒の使いって何ですか?」
さっきから向けられる忌避感を露わにした街の住民達の視線と何か関係があるんじゃないかと思い訊ねると、母親は困ったように言い淀んだ。
「いえ、あの……、昔話みたいなものです」
「どんな話なんですか?」
俺が話に食いつくと、母親は戸惑いつつもぽつぽつと話してくれた。
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