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次に目が覚めた時、私は狼の姿で倒れていた。周囲は血で赤く濡れ、白の魔法使いの死体が転がっていた。
しかし仲間の姿はどこにもなかった。彼らも私と同じく、いやそれ以上に瀕死の状態だったというのに忽然と姿を消していた。
とにかく彼らの匂いを辿ろうと鼻をきかせるが、全く匂いがしなかった。
姿も匂いも完全に消えてしまった仲間に胸騒ぎがした。遠吠えをして反応を待とうかと思ったが、人の気配が近付いて来るのを感じ私はその場から急いで逃げ去った。
根城に戻り呼吸が整えたところで自分の異変に気付いた。
どんなに魔力を使おうとしても体の内は沈黙したままで、人の姿に戻ることができなかった。
傷や疲労による一時的なものかと思ったが、どんなに時が経っても人の姿になることはできなかった。白の魔法使いの呪いによるものだと思ったが、激しい憎悪に囚われたあの男がこんな呪いですませるのだろうかと首を傾げた。
いずれにせよ、大事な仲間を失い自分だけが生き残ってしまったことに私は絶望していた。本能的な生への執着すら失い、私は飲まず食わずで、根城にしていた洞窟の中横たわっていた。
そんな私の体に変化が起こったのは、満月の夜のことだった。
いつの間にか私の体は人の形に戻っていた。洞窟の外に出ると、夜空には不気味なほど明るく大きな満月が昇っていた。
満月は魔力が高まると聞く。恐らく私の魔力が満月の力を得て増幅し、呪いの力を凌駕したのだろう。
しかし理屈はどうでもよかった。私は満月に背を向け洞窟に戻った。そして群れの長に継承されてきたナイフを手に取った。
私は微笑んで微塵の迷いなくその切っ先を自らの胸に刺した。
悲鳴を上げのたうつ鼓動に死を感じた。長として仲間を守れなかったというのに、のうのうと生きてなどいられなかった。
意識が遠のき視界が闇に包まれたその先で、私は思いがけない人物の姿を見つけた。
「ノエ……ッ!」
悲鳴に近い声で叫んでノエの傍に駆け寄った。横たわる彼の小さな体の胸元にナイフが突き刺さっていたからだ。
夢か現かも分からないというのに、私は冷たいノエの体を抱き寄せ、必死に癒やしの呪文を唱えた。
しかしノエは苦しそうに呻くばかりで、胸元の血は止まらなかった。
「……っ、う」
何度目かの呼び掛けに、ノエの目が薄く開いた。
「ノエ――」
その瞳を覗き込んだ瞬間、まるで滝の水が壺に注がれるかのように、頭の中に凄まじい勢いで何かが流れ込んできた。
老婆の笑顔、村人らしい可愛い少女、明るい少年、老婆の穏やかな死に顔、そして微笑んで手を差し出す私――、それらはノエの記憶だった。
記憶は感情も伴って私の中に入ってきた。復讐のために村や街を襲う時の罪悪感や苦痛、吐き気、悲しみ、自己嫌悪……あらゆる感情が胸を締め付けた。
あの小さな体にこんなにも辛い気持ちを押し殺していたのかと思うと涙が止まらなかった。
ノエの心には復讐という正当な暴力に酔いしれる感情はひとつもなかった。ただただ、自身の行為には罪悪感しかなかった。
一番辛かったのは、彼がそれでも長である私を最後まで信頼してくれていたことだった。
――で、でも、人間は悪い奴らばかりじゃないよ……?
あの時、ノエの言葉をもっと真剣に受け止めていればこんなことにはならなかったのだろうか?
しかしもう何もかも手遅れだ。
頭に注ぎ込まれるノエの記憶が途絶えたと同時に、私の意識もプツリと途切れた。
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