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 次に目覚めた時、洞窟の外は朝の爽やかな陽光に満ちていた。私は狼の姿に戻っていた。  その胸元にナイフはなかった。私はどうやら夢を見ていたようだった。飲まず食わずでいたのだ、妙な夢を見るのも無理はない。  残念なような、しかしノエのことが夢だったことに安堵しながら体を起こすと、洞窟の隅に誰かが横たわっているのが見えた。  それは人の姿をしたノエだった。こちらに背を向けて横になっている。 「ノエ……!」  私は歓喜に打ち震えながら彼の名を呼び、彼の元まで駆けた。しかし返事もなく、ぴくりとも動かない。  彼の小さな体には冷たい嫌な気配が漂っていた。肩を引き、ごろりと無理やり体を反転させた。  私は息を呑んだ。その胸元には、私が昨夜自分に刺したナイフが刺さっていたからだ。  彼の体を汚す血はすっかり渇いていて、絶命してから結構な時間が経っていることが窺えた。  私はカタカタと全身が震え、嫌な汗がいたるところから噴き出た。  おかしなことばかりだった。  消えた仲間が突然死体となって現れ、しかもその胸には自分のナイフが刺さっている。  そもそも昨晩のことは夢なのか、現実なのか。いや、むしろ今この時も夢か現かも分からない。  歪み捻れた疑問が吐き気にも似た不快感で胸の中をグルグルと渦巻いた。    ――これは呪いだ。お前の手で仲間を殺して人狼の血を絶やせ……ッ  白の魔法使いが死に際に吐き捨てた言葉が、嘲笑うように脳裏をするりと撫でた。  その時、気付いた。これが呪いなのだと。  私が自分を殺せば、仲間の誰かを殺すことになる。  実際、ノエは死んだ。いや、私に殺されたのだ。  その事実に心臓が凍り付いた。  しかし私には選択肢がなかった。仲間を自らの手で殺したくなければ生きなければならない。  死の渇望と贖う術のない罪悪感に耐えながら、この狼の姿で生き続けなければならなかった――       「……一度、水も食事も一切口に付けず餓死するのを待ったことがある。それならば自らの手で仲間を殺すことなく、死ねるのではないかと思ったからだ。だが、極限の空腹の後に目覚めた時には、干涸らびたユニスの死体が横にあった。それ以来、私は死なないように、仲間を殺さないように生きてきた。それがこの狂った長寿のからくりだ」  男は大きく息を吐いた。その吐息には、長い時間を生きてきた途方もない疲労が滲んでいた。 「……それは、なんというか、そんな呪いを受けて長く生きるって大変だな……」  あまりにも重く悲しい話に俺はどう答えていいか分からず、おずおずと言葉を返した。  男は自嘲するようにフッと小さく笑いを零した。 「正直なところ、私はもう既に死んでいるのかもしれない。ただ残りの仲間を殺すためだけに呪いによって生かされてるのかもしれないとも思う」 「そ、そんな……」  悲しく自嘲的な言葉が辛く、否定しようと口を開いたと同時に、突然胸元に抱き寄せられた。 「え……?」  いきなりのことに戸惑い視線を上げると、男は穏やかに微笑んだ。 「私の鼓動をよく聞いて欲しい」  そう言われて、俺は耳を胸にぴったりと押し付けて耳を澄ました。  するとドクドク、と鼓動の音が聞こえた。ただ普通と違ったのは、その音が明らかに複数あり、それぞれが音の速さも大きさもバラバラに胸を打っていた。

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