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「……えっと、とりあえず最初から一つずつ話すぞ」
相手に理解してもらうためにも、自分の気持ちを整理するためにも、ゆっくりと丁寧に説明することにした。
「まず、俺はクロのことは好きだけど、その好きは人として好きという意味で、決して恋愛的な意味ではない」
「私は人ではないが……」
「言葉の揚げ足をとらないっ。とにかく、クロのことは好きだけど、そういう子作りとかは無理。たとえその懐胎の呪術とかいうのを使って産める体になっても絶対に産みたくないっ。妊娠とか出産とか本当に無理だから」
きつい言葉になってしまったがこうでも言わないと絶対に引き下がらないし、曖昧な言い方では相手に都合のいい解釈をされてしまう。
「以上が、クロの子どもを産めない理由だっ」
心を鬼にしてぴしゃりと言ってのけると、クロは顔を俯けて黙り込んだ。
……ちょ、ちょっと言い過ぎたか?
つい自分のケツを守ることばかりに必死になって配慮が欠けていた自覚はある。
「ク、クロ、きついこと言ってごめんな? でも子どもは作れなくてもクロのこと大好きなのは変わらないからな」
顔を覗き込むようにしておずおずというと、しばらくしてクロが小さく息を吐いた。
「……そうか、それなら仕方ないな」
ようやく得られた納得の言葉に、俺は全身で安堵の息を吐いた。
よかった……! 分かってくれた!
屁理屈をこねまわして強行突破しようとするアーロンやドゥーガルドとは大違いだ。
さすがクロ! と褒めようと思った時、クロの唇が微かに動いて何か呪文らしき言葉を紡いだ。
すると、ジャラジャラ、と素早く地を走る金属の音が響き、蛇のような細長い何かが花畑から宙へと跳ね上がった。
それが何であるか認識する間もなく、俺の方へ襲いかかってきた。
「……ッ!」
あまりにも突然のことで無意味だと分かりつつも咄嗟に目を瞑った。
ガッ……、と首に衝撃が走る。恐らく首に噛み付かれたのだろう。
あまりの恐怖に心臓がヒュッと縮こまった。
しかしいつまで経っても痛みは襲ってこなかったし、首に違和感はあるものの噛み付かれているのとは少し違うような気がした。
恐る恐る目を開けて、首元に手を当てた。
「……首輪?」
自分では見えないが、手の感触だけを頼りに導かれた答えに俺は首を傾げた。
でもさっき蛇みたいに動いてたよな……?
頭の上にハテナマークを飛ばしていると、クロがくつくつと喉を鳴らして笑った。
どこか不穏な気配を纏ったその響きになんだか嫌な予感がした。
「驚かせてすまなかったな。さっきその首輪に術を施しておいた。こちらが呪文を口にすれば自在に動かせる簡単な魔術だ」
そう言って、クロは首輪に繋がった鎖をジャラリと鳴らして拾い上げた。
「確か、あの弓矢の男が言っていたな。これはどんな狂暴なモンスターや獣も鎖を握った者の言うことをきく服従の輪だと。――そしてその効果は人間にもあるとも」
クロの言葉に全身にぞわりと鳥肌が立った。
うっとりとしなった目元の端に、舌舐めずりのような、卑猥な嗜虐心が垣間見えた気がした。
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