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「え、えっと、クロ、と、とりあえず、落ち着いて。一旦その鎖は地面に置いて話し合おう」
人質を取った銀行強盗を優しく宥める警官のように言って聞かせるが、クロは依然として鎖を握ったままじっと俺を見下ろしている。
「……じゃあ鎖を置いたら私の番になり子を作るか?」
「えっ、いや、それは無理だけど」
とんでもない交換条件につい反射的に正直な言葉が出た。
クロは溜め息を吐いて緩く首を振った。
「なら仕方ない。私だってできればこんなことしたくないが、これに頼るしかない」
ジャラリ、とこれみよがしに鎖を持ち上げた。そして俺の上から退き、ゆったりと微笑んで口を開いた。
「――ソウシ、服を脱ぎなさい」
「……ッ!」
クロの言葉が鎖から首輪に伝い、脳内にぐわんぐわんと響く。頭の中で反響するその声に目眩さえしてきた。
絶対に脱ぎたくなんかないのに、気付けば俺はすくっと立ち上がって、シャツのボタンに手を掛けていた。
「え、な、なんで……っ」
俺はパニック状態になった。なのに手は微塵の乱れや迷いなく着々とボタンを外していく。
「ちょ、ちょっと、待て! これ止めてくれ!」
これが首輪のせいだと分かってはいても、言うことを全くきかない自分の手が恐くて仕方がなかった。
「でも脱がないと服が汚れる」
いつの間にかクロは地面にあぐらを組んで俺が服を脱ぐ姿を悠然と眺めていた。
こっちはパニックになっているというのにその余裕の態度が腹立たしかった。
「……それにソウシの裸が久しぶりに見たい」
スッと伸ばされた手にわき腹を柔く撫でられ、体がびくりと跳ねた。
その反応にクロはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「これくらいで跳ね上がっていては、後が持たないぞ」
「……っ」
クロの言葉に、不本意ながらも抱かれる快感を知ってしまった体が期待を滲ませて肌を粟立たせた。
快感に流されやすい自分の弱さは身をもって知っている。だからこそ、子を作るために抱こうとしている目の前の男からは何が何でも逃げなければならなかった。
さもなければ、男でありながら本当に子どもを身籠もることになってしまいそうだ。それは何としてでも絶対に避けたいことだった。
しかし俺の想いに反して手はクロの命令に忠実に従い、シャツ、ズボン、下着、靴と肌を隠すもの全てを剥ぎ取っていく。
ついに丸裸になった時、命令を遂行したためか、クロの言葉が反響しぼんやりしていた頭が少しクリアになった。
そして首からぶら下がる笛に気付いてハッとした。
これを鳴らせば、ドゥーガルドたちが来てくれる……!
絶体絶命のピンチに差した一筋の希望の光に俺は飛びつくようにして、即座に笛を鳴らそうとした。
しかしあともう少しで唇に触れる手前で「待て」とクロに止められた。
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