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当然、服従の輪を付けた俺はピタリと動きを止めた。
あと、少し。もうちょっとで笛を吹けるのに……!
何とか笛を咥えようと手を動かそうとするがびくともしない。
手がだめなら口をと唇を近付けようとするが、まるで後ろから頭を掴まれているかのように動かない。
「今それで何をしようとした? ――言いなさい」
「……ッ、ぅ、こ、この笛を吹いて、助けを呼ぼうとした……っ」
お、俺のバカ! せっかくのチャンスだったのに……!
自分の意思を無視してバカ正直に明かす唇をグッと噛んだ。
クロは俺の言葉に「そうか」と頷き顎に手をあてた。
「微量の魔力を感じていたがそれだったのか。それにしてもあいつらが来るのは面倒だな。ソウシとの営みを邪魔されては堪らない。――ソウシ、それから手を離しなさい」
言われた通り、手が笛を離す。まるで掴んだ蜘蛛の糸から手を離し落下していくような心地だった。
「邪魔なものは排除するに限るな。――それをそこにある石で壊しなさい」
クロは笑顔で足元にある拳ほどの大きさの石を指差した。
このピンチから救い出してくれる唯一の希望であるこの笛を壊すなんて、俺にできるはずがない。
なのに体は少しの抵抗も見せずにクロの言葉に従い、笛を首から取ると足元にぽいと捨ててそのまま石で叩き割った。
砕けた笛の残骸を見た時は、ただただ絶望しかなかった。
「……よし、これで邪魔者は入らないな」
追い打ちのように絶望的なことを言ってクロがにっこりと微笑んだ。
そして立ち上がると、裸になった俺を改めてまじまじと見詰めた。
全裸の上に首輪をつけられているこの姿に屈辱と羞恥を覚えないはずがない。
「み、見るなよ……っ」
俺は赤くなった顔を腕で隠しながら俯いた。しかしそれをクロが許すはずがなかった。
ぐい、と顎を掴んで上を向かせられる。現状をどうすることもできない情けなさと悔しさで涙ぐむ俺を見下ろすその瞳が、嫌みったらしく愛おしげに細められた。
「恥ずかしがることはない。出会った時は裸だっただろ。それにソウシの裸はこんなにも
可愛い」
言いながら無理やり上を向かせた顔に、ちゅ、ちゅ、とキスの雨を降らす。
「ちょっ、ン、やめろって……ッ」
唇と皮膚が触れるだけの戯れみたいなキスから逃げようと首を捩って顔を背ける。
「どうした? 照れてるのか? でも雰囲気作りは大事だ」
「そんなものいらねぇし……っ」
「そうか、ソウシは甘い雰囲気は好まないんだな」
納得したように言うと、クロは鼻先にちゅ、と最後にキスをして俺の顔から離れた。
キスをやめてくれたことは有り難いが、妙にすんなりと引いたクロに引っかかりを覚えた。
訝しむ俺にクロが艶を帯びた笑みを浮かべ口を開いた。
「――ソウシ、お座り」
「……ッ!」
信じられない言葉に唖然とする間もなく、気付けばその場にしゃがみ地面に手をついていた。
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