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第11話 甘いしあわせ

ドゥーガルドが足を止めたのは、澄んだせせらぎの音が耳に心地いい小川の前だった。 ドゥーガルドはゆっくりと俺の体をその場に降ろした。 「……飲め。冷たくてうまい」 ドゥーガルドに促され、俺は川の縁から手を水中に入れた。 清い冷たさがキンと手に染み渡る。 俺は両手で水をくみ取り貪るように何度も口に運んだ。 う、うめぇ……!! こんなに水をうまいと思ったのは初めてだ。 がぶがぶと水を飲んでいると、ふとさっきまで横にいたドゥーガルドがいないことに気づいた。 「あれ……? ドゥーガルド?」 少し不安になって辺りをきょろきょろと見渡していると、 「……どうした?」 「うわっ!」 背後から突然気配なく現れたので俺の心臓は跳ね上がった。 「び、びっくりした~……。どこに行ってたんだよ」 「……すまない。この川を見つけた時にこのうまそうな果実も見つけていたから」 そう言って、ドゥーガルドはリンゴに似た瑞々しい果実を差し出した。 「うわ! うまそう! い、いいのか?」 涎を垂らしながらたずねると、ドゥーガルドがこくりと頷いた。 「うわぁ、マジで嬉しい! ありがとうな!」 俺は果実を受け取るとすぐさまそれに齧り付いた。 だが、スイカのように固いそれはなかなか身まで俺の歯を通してはくれなかった。 く、くそ……! 固い! 手で割ろうとするがびくともしない。 するとドゥーガルドがスッと俺の手から果実を取り、そのまま両手でパカンと割った。 俺の苦労をあざ笑うかのような簡単さでパカンと。 「……ん」 割れた果実を差し出すドゥーガルドの顔は相変わらずの無表情で、俺の非力さを笑っているような様子は決してないのだが、それでも男として力の差をまざまざと見せつけられた気になり落ち込んだ。 「あ、ども……」 もぞもぞと果実を受け取り口に運ぶ。 「……っ!」 口に入れた途端、甘い汁がじゅわりと広がった。 俺はその瑞々しい甘さに思わず感嘆の声を上げた。 「なんだこれ! すげぇうまい!」 ムシャムシャと夢中で貪ると、あっという間に俺の手の平から果実の姿は消えてしまった。 そのことに物足りなさと寂しさを感じていると、 「……ん」 ドゥーガルドがさらにもう半分を俺に差し出した。 「え、いや、悪いだろ。ドゥーガルドも食べたいだろう?」 「……俺はいい。それよりお前が食べているのを見ていたい」 そう言うと、少し強引に果実を俺に押しつけた。 俺は困惑しつつも、それを受け取った。 へ、変な奴……。 ドゥーガルドも同じ道のりを旅してきたのだから俺と同じくらい喉が渇いているだろうに、俺の食べる姿を見たいだなんて変わった奴だな。 まぁ、たくさん食べられる分には文句はない。 「じゃ、じゃあお言葉に甘えて、いただきます!」 俺は再びムシャムシャと貪り始めた。 その後も果実がなくなる度にドゥーガルドが果実をパカンと割って俺に差し出し、それを俺が食べる、ということがしばらく続いた。

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