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第14話 さっそくピンチですけど!?
ドゥーガルドとモンスターの戦いは、依然として膠着状態だった。
モンスターが降り下ろす蔦をドゥーガルドが薙ぎ払うが、蔦はすぐに再生してまた猛攻を繰り出す、という繰り返しだった。
「おお! 淫食花(いんしょくか)じゃねぇか!」
「いんしょくか? なんだそれ?」
仲間の窮地を目の当たりにした反応とは到底思えない声のアーロンに眉をしかめながら訊いた。
「植物型のモンスターで、雌しべの奥部分にある蜜が媚薬として高く売れるんだよ。うわぁ、マジでラッキー!」
奴の目は完全に金の亡者そのものだった。
「ふぅん、媚薬か……」
「ジェラルド! 顔がえらいことなってる!」
今まで見てきた爽やかな笑みなど幻だったかのように、えげつないほどの悪い笑みを浮かべるジェラルドに思わず突っ込む。
「媚薬……怖い……びやく、こわい……」
「チェルノ!? 大丈夫か!?」
隣でチェルノが顔を真っ青にしてガクガクと体を震わしている。
「あぁ! チェルノ、心配しないで! 次はちゃんと媚薬なんか使わず同意でやるから安心して!」
ほぼ意識がないような状態でぶつぶつと呟き続けるチェルノにジェラルドが抱きついた途端、チェルノの体から光と突風が放たれた。
光に目をつぶされた俺たちが次に目を開けると、そこにはバチバチと電気を纏った大きな白い繭があった。
突然のことに目をしばたかせていると、
「テメェ、またチェルノが引きこもってしまったじゃねぇか! トラウマを刺激するのもいい加減にしろよな!」
「ふふ、チェルノったらあの日のこと思い出して恥ずかしくなったのかな」
吠えるアーロンなど意に介さずうっとりと愛おしげに繭を見つめるジェラルド。
こいつら一体なにがあったんだ!?
「クソッ。チェルノの魔法は今回あてにできねぇな。おい! ドゥーガルド! 今のままモンスターをひきつけとけ! 俺がその間に蜜をとる! 絶対まだ殺すなよ!」
「まさかの仲間の救出より媚薬優先!?」
天井知らずのクズっぷりにただただ唖然とするばかりだ。
「うるせぇ、どうせ同じ倒すなら金になる方を選ぶに決まってるだろ」
「お前は仲間のピンチが見えない呪いでもかけられてんのか!?」
「大丈夫、大丈夫。あいつは簡単にやられねぇから。俺は仲間を信じてるんだよ」
「いい台詞風に言うな!」
「それじゃお前はその辺で待機しとけ。くれぐれも邪魔するなよ」
それだけ言い置いて、アーロンは素早くモンスターの背後に回った。
だ、大丈夫なのか……。
アーロンは今後のために少しくらいケガでもした方がいいとは思うが、ドゥーガルドは心配だ。
ドゥーガルドはさっきからずっと戦い続けているのだ、疲労が戦いに影響してもおかしくない。
アーロンが早くとどめを刺すのが得策だと思うが……。
そんな心配をしていると、頭上から影が落ちてきた。
見上げると、大きな蔦が頭上高くから振り落とされようとしていた。
状況はすぐに理解できたのに、体が動かなかった。
や、やべぇ……! つぶされる!
迫りくる脅威に俺はただ目をつぶるしかできなかった。
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