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第32話 魔王より恐ろしい奴がいた!

**** 城の最奥まで進むと、天井が高い広間が現れた。 玉座には、魔王と思われる大きなモンスターが鎮座していた。 「勇者たちよ、よくここまで来ることができたな。それは誉めてやろう」 ゴリラと牛を足して二で割ったような顔でにやりと笑って魔王が言った。 で、出たー!!! いかにも魔王っぽい台詞! そのテンプレな台詞に俺は感動すら覚えてしまった。 「だが、その快進撃もそこまでだ。なぜなら……」 魔王は立ち上がると、黒いマントを翻して玉座の後ろを振り返った。 「我々は、あの禁忌とされた邪神召喚に成功したのだ!」 魔王がパチンと指を鳴らすと、手のひらくらいの大きさの炎が辺りに浮かび上がった。 すると、玉座のななめ後ろに玉座よりもさらに豪奢な椅子に座る人の影が現れた。 その人物に、俺は思わず目を見張った。 「……おい、邪神とは何事だ。様をつけろ」 「ハッ! 誠に申し訳ございません、邪神様!」 屈強な魔王をひざまつかせるその男は俺がよく知る人物だった。 「け、けけけけけ、慶介ぇぇぇぇぇぇぇ!?」 驚きのあまり思わず俺は絶叫しながら、震える指で奴を指さした。 突然大声を上げた俺に、みんなも驚き振り返る。 俺の存在に気づいた奴も、眉を上げてこちらを凝視した。 「……なんでお前がここに?」 「それはこっちの台詞だ!」 しかも邪神として魔王に崇められてるってどういうこと!? 驚いた顔をしていた奴だが、しばらくすると納得したように頷いた。 「なるほど。俺が召喚された時に、お前も巻き込まれてこの世界に来てしまったんだろうな」 「は!?」 嘘だろ!? 元の世界で「異世界トリップしたい」と思わせるほど俺を追い込んだ男が、このふざけた異世界トリップの諸悪の根元ということなのか!? ふざけんなぁぁぁぁ!!! お前、どれだけ俺に迷惑かければ気がすむんだ!!! 煮えたぎった怒りで言葉を紡げずにいる俺など気にする素振りもなく、奴はなぜかフッと不気味な笑みを浮かべた。 「……まぁいい。順序は逆になったが、こっちに連れてくる手間が省けた」 「へ?」 どういうことだと聞き返そうとしたが、突然、ドゥーガルドに腕を引っ張られ俺の言葉は遮られた。 「なんだよ!」 「……あいつ、ソウシの知り合いか?」 普段は表情の乏しいドゥーガルドだが、明らかにその顔は不機嫌なもので、じっと慶介を睨んでいた。 「あー……、幼なじみだよ」 「……幼なじみ。じゃあずっとソウシの傍にいたんだな」 慶介を睨む瞳がさらに鋭くなり、俺の腕を掴む手にギリっと力が込められた。 ……えっと、あの、ドゥーガルドさん? なんか嫌な予感がするんですけど……。 すると、なにを思ったかいきなり戸惑う俺を抱き寄せた。 「ドゥーガルド!?」 「……邪神、よく聞け。お前がソウシと過ごした時間がどれだけ長かろうと、ソウシの恋人は俺だ!」 「初耳だけど!?」 いつのまに俺はお前の恋人になったんだ!? ドゥーガルドはアーロンと違って無自覚で俺の意志なんて無視するからたちが悪い。 「……だってあの日、お前はあんなに俺を求めてくれた」 「だぁぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁ! 頼むから言葉を慎んでくれぇぇぇ!」 やばい! こんなことが奴に知られたら、元の世界に戻ってから「あいつはホモ野郎だ」だとか言って吹聴するに決まっている。 さぞ面白いネタを見つけたと嗜虐的な笑みを浮かべているに違いない。 ――バキッ! 突然、冷たく固い音が、広間に響いた。 音の方を見ると、慶介が座る豪奢な椅子の肘掛けが割れていた。 手から血を流す慶介は笑っておらず、冷たい目で俺を見下ろしていた。 それは元の世界でも見たことのないほど恐ろしい目だった。

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