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今まで見えていたミシェットさんの姿がベールを剥がされるように闇に消え、代わりにここにいるはずのないドゥーガルドの姿が現れた。
「え? え? えぇぇぇぇ!?」
俺は絶叫した。
「なんでドゥーガルドがここに!? つーか、娼館は!?」
「……学びが終われば用はない。だから戻ってきた。……安心してくれ、実践はしなくても座学だけで十分学べた」
ドゥーガルドは得意げですらある笑みを浮かべた。
何に安心しろと!?
むしろ今まで可愛い女の子といい感じだったのに、突然その子がドゥーガルドになったことに驚愕と恐怖しか感じないんですけど!
「いやいやいや! つーか、せっかくだし実践もしてこいって!」
乗っかかってくる犬に「ゴーホーム!」と叫ぶように言うが、全くドゥーガルドは聞く耳を持たず、鼻先をすりつけるようにキスをしてきた。
「……ソウシ以外の人間と生涯するつもりはない。こういうことは本当に愛している人間としかできないものだ」
「いや! できる! 男は愛がなくても意外とできる方だから!」
もう! これだから童貞は!
セックスに夢を持ちすぎだ!
俺も童貞だけど!
「……俺はソウシとじゃないとできない」
「思い込み思い込み! つーか、俺としたことないじゃん! 何勝手に俺だけに限定してんの!? 決めつけ良くない!」
「……そうだな。分かった。じゃあ早速今からソウシじゃないとだめだということを実証しよう」
「全然分かってねぇ!」
絶望的なまでに言葉が全然通じないドゥーガルドに俺は頭を抱えた。
そんな俺をドゥーガルドは心配そうに首を傾げ、顔を覗き込んできた。
「……ソウシ、大丈夫か?」
「お陰様で全然大丈夫じゃねぇ……」
「……そうか、やっぱりアーロンに無理矢理犯されたことがトラウマになっているんだな……」
「ちげぇ……っ!」
自分の都合のいいように解釈をするドゥーガルドに半ば呆れながら否定しかけたが、しかしこれは俺にとっても都合がいい誤解だと気づき口を閉じた。
ドゥーガルドは根は真面目で誠実な奴だから、きっとアーロンとのことがトラウマになっていると痛ましげに言えばこれ以上手を出すことはないだろう。
よし、そうと決まればレッツ演技!
「……そ、そうなんだ。お、おれ、男が上から乗っかかれると、あの日の記憶が蘇って震えが止まらなくて……」
目を伏せながら、これ以上言わせるなというように震わせた手を口元にあてる。
よし、パーフェクト……っ!
これで完全に心に大きな傷を負ってる風にしか見えないだろう。
そんな可愛そうな人間をそれでも犯そうなんて考える奴いるはずがない。
いたとしたら、よっぽどのゲス野郎かバカ野郎だ。
「……ソウシ」
まるでドゥーガルドまでもが傷ついているような哀れみに満ちた声に、俺は内心ガッツポーズした。
よしよし、うまくいった。
これでドゥーガルドも空気を読んで俺の上から撤退するに違いない。
……と思った俺は甘かった。
ガッ! と勢いよく、口元にあてていた手をドゥーガルドが握ってきた。
「……分かった。俺が今からその辛い記憶を塗り替える」
「え?」
今、コイツ何て言った?
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