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第三話
「やばっ!超久々じゃん!飯塚先生」
「なっ……んで、お前が」
たったさっきまで俺を苦しめていた気持ち悪い感情も、思考も、全てが一気に抜け落ちていく。
「なんでって、久々に学校に遊びに来ただけっすよ?」
陽気に笑うその笑顔は、三年前と全く変わらない。
ただ変わったと言えば、昔よりも明るくなった金髪と、小麦に焼けた肌の色くらいか。
昔からチャラい奴だったが、それがさらに増している気がする。
「つか、先生マジなんも変わんないっすねぇ。もう三十路しょ?早く結婚とかした方がいいんじゃないすかぁ~?」
「は?なんだよそれ」
なんでお前が、そんな事を言うんだ。
「先生を舐めてんのか。本条 」
右手に持っていた煙草の箱が、ぐしゃりと音をたてて潰れる。
他の生徒に言われるなら、別に何とも思わない。
けど、コイツにそれを言われるのは納得がいかない。
だって俺は、三年前ここの生徒だった本条とーー付き合っていたのだから。
「もしかして先生。あれからまだ誰とも付き合ってない感じ?」
「っ……だ、だったらなんだ」
「俺の事、忘れられなかったとか?」
「んなわけ」
「なら先生。また俺と付き合ってよ」
「は!?」
突然、何を言い出すんだコイツは。
「本条。お前何考えて」
「『繁 』って呼んでほしいな~。三年前みたいにさ」
「っ……ふざけるのも大概に!って、ふむっ!?」
いつのまにか俺の前に立っていた本条は、俺の両腕を片手で拘束し。そのまま壁に追い込んで、強引にキスをしてきた。
「んんっ!!はっ、やめっ!んっ!」
口を開こうとすると、粘ついた舌を無理矢理奥まで入れられて、かき混ぜられる。
押し退けようと抵抗すると、圧倒的な力で押さえつけられる。
早川にされていたキスとは全然違う。
ーー怖い。
「うっ、んっ!」
脚に力が入らなくなる。
けれど、それでも構わず本条はちゅ。じゅっ。と甘く淫らなリップ音を鳴らしながら、俺の中を何度も何度も掻きまわしてくる。
酸素もうまく回っていないのか、頭がくらくらしてきた。
「ぁ、んんっ……」
どうして……どうしてこんな事をするんだ。
お前は一度、俺を裏切ったはずなのに。
どうしてまた、こんなキスをしてくるんだ。
「や、めっ」
『先生』
嫌だ。
『好きです。先生』
俺は。
俺が今、好きなのはーー。
バンッ!!
「……なにやってるんですか」
「は、やかわ……」
ドアが蹴破られた音と共に姿を現したのは、今まで見たことも無い。怒りに満ちた早川だった。
突然の事で、本条も早川を凝視したまま固まっている。
だが早川はそんな事はお構いなしに俺の腕を掴むと、本条から取り上げるように思いっきり俺を引っ張って、胸に抱き寄せてきた。
「お取込み中申し訳ありませんが。この人は僕が予約済みなので、手を出さないでください」
俺の耳元で、早川の鼓動が焦ったようにドクドク鳴っている。
「予約済み?ぷっ、やべぇウケるわ~」
「別に笑っても構いませんよ?貴方が僕の先輩だったとしても、貴方と先生が昔付き合っていたとしても、今の僕には関係ありません。僕は先生が好きなんです。今更貴方に渡すつもりはありません」
「っ~~!おまっ、よくそんな恥ずかしい事が」
「言えます。僕はいつだって本気ですから」
「っ……」
いつだって本気。
今までずっと、俺に伝えてきた言葉も全部。
「ははっ、マジウケるねお前」
「っ……」
「……あぁ~~あ。そっかそっか……なら、俺も安心だわ」
「本条?」
乱れた前髪を掻き上げて、本条は寂しさを堪えたような作り笑顔を俺達に向ける。
そして、静かに頭を下げた。
「先生、あの時はごめん。卒業したら先生の事迎えに行くって言ったのに……俺、先生を裏切った」
「……」
本条の言葉に、あの頃の記憶が甦る。
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