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第四話
三年前。俺と本条は恋人同士だった。
教師が生徒に手を出すなんて許されない事だと分かっていた。けど、それでもあの時の俺は本気で本条が好きで、いつも放課後は二人でこっそりと屋上に行っては、気持ちを伝えあうように何度もキスをしていた。
「ふっ、んっ……」
「ちゅ。ふっ、先生マジ可愛いっすね」
「か!可愛いわけねぇだろ……アホ」
「っ……なぁせんせ~?そろそろエッチしちゃいません?俺、ちゃんと男同士のヤり方勉強してきたし」
「それはお前がちゃんと卒業して、大人になってからって言っただろうが」
「えぇ~~!厳しいなぁ~……じゃあじゃあ!卒業したら一緒に住もう!んで、エッチもたくさんする」
「い、一緒にか?」
「駄目?」
「い、いや……まぁ一緒に住むくらいなら」
「マジで?やったね!」
「ただし。んな頻繁にエッチはしねぇからな」
「えぇーー!!」
「歳考えろ!エロ餓鬼!」
「先生、そんなにオッサンだっけ?」
「オッサンって言うんじゃねぇ」
「いたたっ!マジすんません!ガチで謝るから!」
「チッ。たくっ……」
「あはは!やっぱ先生は可愛いなぁ~~」
「っ……馬鹿か」
「先生マジ好き。超好き」
「……俺もちゃんと好きだから。安心しろ。繁」
毎日が刺激的で、毎日が楽しい日々。
どんなに辛い事があっても、繁がいてくれたおかげで俺は頑張れてきた。
だから卒業しても、寂しいなんてことはなかった。
立派な大人になった繁が、いつか迎えに来てくれるのを信じていたから。
俺は、待ち続けた。
けどーー。
高校を卒業した繁は、別の女と付き合っていた。
その光景を目の当たりにした時、大事な何かが全てが崩れ落ちていく。そんな気持ちだった。
どんなに思い出を作っても、どんなに気持ちを伝えあっても、卒業すれば皆変わる。
餓鬼と付き合うからこんな目に合うんだ。
好きとか言われて調子に乗るから失敗するんだ。
全部自分が悪い。
自分が好きになるのが悪いんだ。
勝手に自暴自棄になって、何もかもを諦めてーー。
そんな事を繰り返しているうちに、いつのまにか俺は恋をするのが怖くなった。
また好きになったって、きっといつかは離れていく。
こんな俺に、誰も本気で好きになんてならない。
ずっと、そう思ってきた。
けど。
「もういいんだ本条」
「……先生」
「確かに俺は、お前に裏切られて相当ショックだった。もうこんな想いはしたくないって思っていた。けど……どうやら俺は、また性懲りもなく誰かを好きになっちまったみたいだ」
俺を抱き寄せていた早川の手が、小さく震える。
「お前のおかげで勇気もついたし、もう後悔なんてしたくないって思えた。ありがとな本条、俺を変えてくれて。今度は待つんじゃなくて、俺も追いかけることにする」
「……そ、すか。なら良かったっす。先生、頑張ってくださいね」
「あぁ」
「あぁあ~~……じゃあ最後に一つ!!」
「なんだ?」
「大好きでした」
「っ……あぁ、俺も好きだったよ」
俺の初恋。俺の大切な思い出。
けど今日で、卒業する。
そしてーー。
「なぁ早川」
「はい。なんですか先生」
「俺、お前の事が好きだ」
新たな恋に、突き進む。
「僕も、ずっと大好きです」
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